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2014年12月14日掲載

「最新の胃がん治療」

 胃がんは胃壁の内側にある粘膜に発生します。内側の粘膜から徐々に粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)へと奥に向かってがんは広がっていきます。がん細胞が粘膜または粘膜下層までにとどまっているものを「早期胃がん」、筋層より深く達したものを「進行胃がん」といいます。

 胃がんは日本人が最も多くかかるがんです。男性は約9人に1人、女性は約18人に1人が一生のうちに胃がんと診断されています。胃がんはかつて日本人のがんによる死亡数の第1位でしたが、診断方法と治療方法の向上により、最近は男性では肺がんに続き第2位、女性では第3位となっています。

 ひと昔前まで胃の病気といえば、例え胃潰瘍であっても開腹手術が一般的な治療法でした。しかし、医療は日進月歩で進歩し、現在では胃がんであっても早期発見できればおなかに傷をつけることなく、口から胃に内視鏡を入れて病変のみを切除することが可能となりました。おなかも切らず、胃も病変しか切らないため、体への負担を最小限に抑えることができます。入院期間も1週間程度と短期間です。

 胃の腫瘍に対する内視鏡手術は1983年ごろから、「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」という治療法から始まりました。これは輪っか型の電気メスを使い腫瘍の根元を絞め上げるように切除する方法です。ただ、ポリープ状の腫瘍が主な適応で、平たんでサイズが大きいものは切除できませんでした。無理に分割して切除すると、がんの取り残しができ、再発してしまうケースもありました。

 その弱点をカバーする治療が、2006年から保険適用となった「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」です。ESDは特殊な処置具を用いて病変の周囲を全周切開し、粘膜下層を剥離することにより、病巣部分を一括で切除する治療法です。従来のEMRと比較すると、病変の範囲を確認しながら切除できるため、より大きな病変や潰瘍を合併した病変でも切除が可能となりました。

 しかし、治療手技は難易度が高く、合併症も多いため、高度な技術が必要となってきます。故に自分の病状が現在どういうステージなのかを十分理解したうえで、信頼のおける医療機関で納得のいく説明を受け、治療に臨むべきです。

 冒頭で述べたように、がんは植物と同じように、進行すると徐々に粘膜の奥まで根を伸ばしていきます。粘膜の奥にはリンパ管や血管などの組織がたくさんあり、そこにがんが浸潤すると、全身のリンパ管や血管を通りリンパ節や臓器へと転移していきます。今回紹介した内視鏡手術は局所療法であり、リンパ節転移には無効です。

 がんは早期に発見さえすれば治る時代に突入してきています。現在検診で発見される胃がんの70%近くは早期胃がんです。本県の検診内視鏡はとても高いレベルを維持しています。みなさんも主治医の先生に相談し、年に1回の検査を心掛けましょう。

(長崎市茂里町、長崎原爆病院消化器内視鏡診療副部長  楠本 浩一郎)

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