>>健康コラムに戻る

2015年3月16日掲載

「経皮経食道胃管挿入術」

 「経皮経食道胃管挿入術」とは聞き慣れない言葉かもしれません。

 簡単に申し上げますと栄養管理などを目的として、左頸部(けいぶ)から直接食道に管を挿入し、その先端を胃の中に留置する方法で、「胃ろう造設術」とほぼ同様の手術手技です。英語表記のPercutaneous Trans−Esophageal Gastro−tubingの頭文字を取って「PTEG(ピーテグ)」と略されています。

 「胃ろう」については以前のこの欄でも取り上げられており、皆さまも比較的よくご承知のことと思います。最近は内視鏡下で胃ろうの造設が行われるのがほとんどで、「PEG(ペグ)」と略されています。

 胃ろうについての詳細は省略しますが、胃ろう造設が必要であるにもかかわらず、いろいろな原因でPEGが安全に施行できない場合があります。例えば、以前、胃の手術が行われている場合や、胃と腹壁の間に肝臓や大腸などが介在する場合、胃が上方に挙上している場合、腹水が貯留している場合−などです。

 このような状態では従来は開腹手術をして胃ろうを作らなければならず、患者さんにかなりの負担が掛かっていました。今回お話しする「PTEG」は、「PEG」とほぼ同程度の負担で、比較的安全に胃内に管を留置することができます。

 PTEGは当初、がん性腹膜炎に対する腸管の減圧を目的として、大石英人医師によって考案され、1994年に第1例目が施行されています。この方法の画期的なところは、針を刺しても破れない特殊なバルーン(風船)の開発にありました。手技について簡単に述べます。

 われわれはPTEG造設には住友ベークライト社製PTEGセットを用いて、透視室でドップラーエコーを使用して行っています。

 まず非破裂型穿刺(せんし)用バルーンカテーテルを鼻から挿入し、バルーンを食道内で膨らませ、これを食道入口部まで引き上げます。左頸部で、超音波検査装置(エコー)を用いて、気管、甲状腺、頸動脈、頸静脈などと食道内のバルーンの位置を確認します。

 次にエコーの機械に穿刺用の器具を装着し、エコーガイド下にバルーンを針で穿刺し、ガイドワイヤーを挿入します。経鼻的に挿入したバルーンを抜去し、穿刺部を拡張して留置用の管を挿入して終了です。

 当院では2005年からPTEGを行っており、現在までに40例ほど施行しています。PTEGの合併症としては出血、他臓器穿刺などの可能性が考えられますが、幸いに現在まで処置を要するような合併症は経験していません。手技的には経験を要するものの、比較的安全かつ簡便に施行できる有用な方法であると考えています。

 経管栄養(経腸栄養)が必要な場合の選択肢の一つとして覚えていてください。02年に日本PTEG研究会が設立され、毎年学術集会を開いています。興味のある方は研究会ホームページなどもご参照ください。

(長崎市樺島町、長崎掖済会病院 副院長  草野 裕幸)

>>健康コラムに戻る