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2015年4月6日掲載

「飛蚊症」

飛蚊症と書いて「ひぶんしょう」と読みます。眼科を受診される患者さんの訴えの中でも多いものの一つです。

 飛蚊症は目の前に黒い点のようなもの、輪や髪の毛のようなもの、水玉のようなものが動いているように感じる症状です。白い紙や青い空など明るいものをバックにしたときに気付くことが多く、それが視線を動かすとついてくるのが特徴です。

 飛蚊症は、目の中央に位置する「硝子体(しょうしたい)」の変化が原因となって起こります。硝子体はレンズの働きをする「水晶体」と、目の奥にあるフィルムの働きをする「網膜」との間に存在するゲル状の透明な組織で、加齢や病気によってその性状が変化します。その際に生じた混濁が網膜に投影されて黒い影を自覚することになります。

 飛蚊症の原因で最も多いのは、後部硝子体剥離という中高年の誰にも起こりうる加齢に伴う変化です。硝子体とその奥の網膜は通常ぴったりと接着していますが、加齢により性状が変化して収縮し網膜から剥離します。こうした飛蚊症は時間の経過とともに軽減していきますし、視力には影響しませんので治療の必要はありません。

 後部硝子体剥離に伴ってさまざまな病気が生じることがあります。その一つが網膜剥離です。硝子体が加齢によって収縮し、後部硝子体剥離が起こる際に網膜が牽引され、網膜に穴(網膜裂孔)ができて網膜がはがれる原因となります。放置すれば失明に至る疾患ですので、早急な治療が必要です。特に近視の強い方は若くても後部硝子体剥離が生じることがありますのでご注意ください。

 硝子体出血も飛蚊症の重要な原因の一つです。糖尿病によって起こる糖尿病網膜症、高血圧や動脈硬化による網膜中心静脈閉塞(へいそく)症など「眼底出血」と総称される病気では、新生血管(出血しやすい病的な血管)が生じることがあります。この血管が破綻して血液が硝子体に流入するのが硝子体出血です。眼球の打撲によって起こることもあります。眼底出血に対する眼科的治療と並行して、他科の先生の協力をお願いして内科的疾患のコントロールも必要となります。

 ブドウ膜炎という炎症性疾患も飛蚊症を起こします。混濁の程度は軽いものから、悪化すれば物を見るのに支障を来すものまでさまざまです。炎症を抑える治療が必要です。

 このように飛蚊症は目の内部の環境の変化を示すサインといえます。後部硝子体剥離のように治療が必要ないものから、網膜裂孔、網膜剥離、眼底出血から生じる硝子体出血やブドウ膜炎など視力に重大な影響を及ぼす病気が原因となるものもあります。

 異常を感じたら、ぜひ一度、眼科を受診してください。早期発見、早期治療が視力の予後を左右する鍵となります。

(長崎市清水町、おぐし内科眼科 副院長  小串 玲子)

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