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2015年5月18日掲載

「切迫流産・切迫早産」

 「切迫流産」とは流産への移行状態にあることを指します。「切迫早産」とは早産の始まりを示唆する症状があり、近い将来、早産に至る可能性がある状態を指します。

 切迫流産の症状は主に出血と下腹痛ですが、下腹痛がなく、少量の出血のみの場合もあります。また、妊娠中期では子宮口の開大と胎胞の形成を見ることがあります。

 流産に至る原因は胎児の染色体などの異常や、子宮形態異常、卵巣機能異常、甲状腺疾患や糖尿病などの母体の内分泌疾患など多くのものが考えられており、妊娠12週未満の切迫流産については現在有効な治療法は知られていません。

 妊娠初期の出血の原因には絨毛(じゅうもう)膜下血腫があり、妊娠の3・1%に認められると報告されています。妊娠初期の出血は珍しくなく、即流産につながる例ばかりではないですが、十分注意が必要です。

 現在、胎児心拍が確認された切迫流産例では、ホルモン剤や止血剤を用いた薬物療法や安静療法などを考慮しますが、胎児に流産の原因がある場合は功を奏しないこともあります。妊娠中期になると、感染への対策や子宮収縮抑制剤が有効な症例もあり、頸管(けいかん)無力症の症例では頸管縫縮術をすることもあります。

 切迫早産は子宮収縮の増加および子宮口の開大、展退が進行した状態です。症状としては血液が混じったおりもの、出血、月経痛様の下腹痛、体験したことのない背部痛などがあり、時に破水感を伴うこともあります。早産の危険因子に早産の既往、絨毛膜羊膜炎、多胎妊娠、細菌性膣(ちつ)症などがあります。

 診断は内診による子宮口開大、超音波による頸管長の測定、モニターによる子宮収縮の観察などにより行います。最近は経膣超音波による頸管長の測定が用いられます。同時期の妊娠に比し、22ミリ以下では9・5倍、13ミリ以下では14倍の頻度で早産の危険が高かったと報告されています。

 治療は安静を基本とし、塩酸リトドリンや硫酸マグネシウムの投与、また抗生剤を用いた消炎処置などを行います。

 近年、産科のみならず小児科の先生方のご尽力で、かなり早い週数の子どもたちが救命できるようになりました。しかし、県内の新生児集中治療室(NICU)は「出生1万人対23・3床」しかなく、九州でも大分県に次いで2番目の少なさです。国の目標である「出生1万人対25〜30床」に比べ、かなり少ないといえます。NICUが満床となり、県外へ搬送になるような事態も実際に起こっています。

 行政には周産期に携わる人材の確保、施設の充実をお願いしたいのですが、すぐに解決できる課題ではありません。今できることは医療者、妊婦さん、それに関わる方々にご理解、ご協力いただき、無理な行動はできるだけ控え、早産に至らないようにすることです。

 症状がある場合は早めにかかりつけ医にご相談・受診され、早産の予防に努められることを切に願います。

(長崎市矢上町、池田産科−YOU−婦人科医院 院長  池田 裕一郎)

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