>>健康コラムに戻る

2015年6月1日掲載

「胃がんの予防対策」

 日本人が最もかかりやすく、いまだ多くの患者さんが亡くなられている「胃がん」。世界的に見ても男女とも韓国に次いで2番目の多さです。この胃がんの発症に深く関わっているのが「ピロリ菌」(ヘリコバクター・ピロリ)。そこで胃がん予防対策としての除菌治療を中心に解説します。

 胃の中に細菌がいることがピンと来ない方もいるでしょう。ピロリ菌が世界で初めて発見されたのは今から30年前です。胃の内部は胃液に含まれる塩酸によって強度の酸性環境にあり、従来細菌は胃では生きられないと考えられていました。

 ところが、ピロリ菌は特殊な酵素(ウレアーゼ)を持っていて、胃液の中にある尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解してしまうのです。アルカリ性のアンモニアが胃酸を中和することで、ピロリ菌は自らの身を守るというわけです。

 感染経路は、衛生環境が良くなかった時代は子どものころに飲んだ水などが主な原因となっていました。ピロリ菌は数年〜数十年かけて胃粘膜細胞を徐々に傷つけ、しまいには胃がんにしてしまうと考えられています。ピロリ菌感染の有無で胃粘膜の一生が決まるといっても過言ではありません。

 除菌治療は2000年から胃潰瘍と十二指腸潰瘍の患者さん、10年から早期胃がんに対する内視鏡治療後の患者さんへの保険適用が始まりました。そして、13年2月から慢性胃炎の患者さんも保険で除菌治療が受けられるようになりました。内視鏡で慢性胃炎の診断を受けた上で、ピロリ菌感染の有無を調べる検査を実施。その結果、陽性と確認されれば除菌できることになりました。

 胃炎の段階から除菌することで、胃がんや潰瘍のリスクが減少することから、国が対策に踏み切ったのです。

 ピロリ菌の除菌は内服療法です。胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)と2種類の抗菌薬(アモキシシリンとクラリスロマイシン)の計3種類の薬剤を7日間続けて服用します。服用終了後は、4週目以降に尿素呼気試験などで、除菌できたかどうかを判定します。

 最近は抗菌薬に抵抗性を示すピロリ菌もいて、除菌成功率は70%台に下がってきています。1次除菌が成功しなかった場合は2次除菌を行います。2次除菌では、クラリスロマイシンをメトロニダゾールという別の抗菌薬に置き換えます。この方法で約9割の方が除菌に成功します。

 治療中の注意点としては下痢、軟便、食べ物の味が変わるなどの副作用があります。ペニシリンにアレルギーがある方は特に注意が必要です。また、2次除菌でメトロニダゾールを内服中は絶対に禁酒しましょう。

 しかし、除菌したからといって安心ではありません。胃がん発症のリスクは低下しますが、ゼロになるわけではありません。胃炎などで既に前がん状態にある場合、そこからがん化する可能性があるからです。皆さんの胃を守るために定期的に胃がん健診を受けましょう。

(長崎大学病院光学医療診療部 准教授  磯本 一)


>>健康コラムに戻る