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2015年6月15日掲載

「精神障害への運動の効用」

 最近、生活習慣病だけでなく、認知症やうつ病などいろいろな疾患や障害の予防あるいは治療に対する運動の効用が取り上げられています。

 日常的に運動やスポーツを行い体に適度な負荷を与えることで、自律神経を活発に働かせ、体温や血圧、心拍数を調節して代謝機能を向上させ、気候の変動による身体的なストレスを軽減することができます。適度な運動は良い睡眠をもたらします。結果として運動は、精神的なストレスの軽減に非常に大きな効用をもたらします。

 障害者スポーツはパラリンピックや全国障害者スポーツ大会など盛んに行われていますが、競技の中心は身体障害者や知的障害者を対象にしたものです。精神科医療では昔から作業療法や運動療法の中で運動が行なわれていましたが、戦後は薬物療法の発展に伴い運動、スポーツはレクリエーション的な意味合いの強いものに変わりました。

 しかし最近になって精神障害者のリハビリの中で競技スポーツの効用が大きく取り上げられています。数年前に大阪高槻市の精神障害者のフットサル活動がテレビで紹介されました。そこでスポーツをしている精神障害者の姿は私たちが普段見たことがない生き生きとしたものでした。

 競技スポーツはけがをするのではないか、勝ち負けのプレッシャーや観戦者に見られることへの緊張感から悪い影響が出るのではないかと懸念されますが、先に述べたようにスポーツには自律神経機能の向上と併せてストレス耐性の向上や気分転換、良い睡眠をもたらす効用があります。

 さらに競技スポーツでは勝ちに喜び、負けに悔しがり、さらに次は勝つために頑張ろうという向上心や克己心を高める効果もあります。このような体験は精神障害者のリハビリにも有効です。さらに会話での対人交流が苦手な精神障害者でも競技を通じて交流し仲間ができ、喜びや悔しさといった感情を共有することができます。このことが病状を大きく改善させてくれるのです。

 先に触れたフットサルは5人対5人の少人数でプレーできる上、疲れたらいつでも交代でき、接触プレーが少ないなどの特性があります。性別や障害の有無に関係なく楽しめるということで誰でも、どこでも、いつでも始められるスポーツといえます。

 近年、精神障害者のフットサルチームが各地で結成され、盛んに試合が行われるようになりました。参加メンバーは今まで以上にはつらつとなり病状も改善し、社会復帰を果たす人も増えています。10月には名古屋市で初の全国大会が行われます。そして、その中から日本代表メンバーを選び、来年2月に大阪で開かれる世界大会に出場する予定です。

 このように運動やスポーツは精神医学や心療内科領域のさまざまな病状に大きな効用を持っています。しかし、科学的な検証は不十分で、今後はその医学的な検証を重ねることが求められます。

(長崎市錦2丁目、田川療養所 院長  田川 雅浩)

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