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2015年7月6日掲載

「高齢者肺炎」

 高齢者は体の免疫機能が低下しているため、いったん肺炎が発生した場合には重症・難治化しやすく、命に関わる危険性も高くなります。実際、肺炎による死亡率は徐々に高くなってきていて、2011年には脳血管疾患を抜いて日本の死亡原因の第3位となりました。中でもその90%以上は75歳以上の高齢者が占めています。

 重症・難治化する高齢者肺炎は抗菌薬の長期投与が必要となるため、入院日数が延びて医療経済的に損失が大きいだけでなく、薬剤耐性菌の温床ともなります。高齢者肺炎に対する対策は非常に重要です。

 感染症は人の免疫機能と微生物の病原性のバランスの上に成り立っていますので、防御機能が低下している高齢者では容易に重症・難治化の様相を呈します。易感染性の要因としては、気管支線毛運動の低下や咳反射(がいはんしゃ)の低下などの気道局所の要因と、貪食細胞などの免疫能の低下および低栄養状態、糖尿病、悪性腫瘍、肝・腎機能障害、心不全
、慢性呼吸器疾患、脳血管障害の合併などの全身性の要因が考えられます。

 原因微生物としては肺炎球菌、インフルエンザ桿菌(かんきん)、肺炎桿菌といった一般の肺炎の原因菌に加え、嫌気性菌が多く見られる一方、若年者と比べマイコプラズマという細菌の頻度が少ないことが特徴です。

 臨床症状としては一般の肺炎症状である発熱、せき、たんが見られますが、微熱、食欲不振、全身倦怠(けんたい)感、自発性の低下、意識の変調などが主で、呼吸器症状が乏しい症例にもしばしば遭遇しますので、細心の注意を払う必要があります。

 認知症や難聴などの問題のため問診が正確にできない場合には、家族や介護スタッフからの問診も重要になります。

 高齢者肺炎に特有の問題として誤嚥(ごえん)性肺炎が挙げられます。これは咳反射の低下や脳梗塞、認知症、寝たきりなどの要因により生じてきます。誤嚥性肺炎の原因菌の多くは口腔(こうくう)内の常在菌です。予防の第一は口腔ケアであり、毎食後の歯みがきとうがい、義歯の手入れが基本となります。

 また、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種、あるいはこれらの併用接種も予防効果が認められています。その他、嚥下(えんげ)機能に応じて、刻み食、ミキサー食、半固形食など飲み込みやすい食物形態にしたり、摂食時あるいは食後に座位を保つことも大切です。

 このように、高齢者の肺炎は命に関わってくる危険性が高いのですが、発熱、せき、たんなどの典型的な呼吸器症状が見られないことも多く、医療機関を受診したときには病状がすでに悪化していることもしばしばです。いつもより元気がない、あるいは食欲がないときは、早めにかかりつけの先生への受診をお勧めします。

(長崎市新地町、長崎みなとメディカルセンター市民病院呼吸器内科 内科診療部長  澤井 豊光)


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