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2015年8月3日掲載

「健康寿命」

 世界保健統計によると、2013年の日本人の平均寿命は84歳。男女別でも男性80歳(世界4位)、女性86歳(同1位)と世界一の長寿国といえます。しかし、平均寿命が長いことが本当に良いことなのでしょうか。

 厚生労働省が掲げる国民健康づくり運動「健康日本21」の中に、「健康寿命」という概念があります。「健康上の問題がない状態で、日常生活を送ることができる期間」という意味です。13年の日本の健康寿命は男性71歳、女性74歳でした。

 これを見ると、平均寿命と健康寿命との間には大きな開きがあります。つまり晩年の10年間は日常生活に何らかの支障を来しており、延びた余生の多くを脳卒中やがんなどとの闘病生活に費やしているのではないかと考えられるのです。
 病院や施設で余生を過ごすのではなく、最期まで人間らしい生活を送るため、医療と福祉が手を携えて健康寿命を延ばすよう努力しています。

 近年の医療の進歩は目を見張るものがありますが、中でも発症早期のリハビリテーションが重要視されるようになりました。回復を促すために行っていた安静臥床(がしょう)が、逆に関節や骨・筋肉、そして心機能や精神状態にまで悪影響をもたらすことが分かったためです。

 これを「廃用症候群」と称しますが、病気を発症した急性期から医師の指導の下、可能な限り体を動かすことが廃用症候群の予防のみならず、その後の機能回復にも寄与するのです。

 ベッドに寝たまま治療を行うのではなく、治療しながら座ったり立ったりして関節や筋肉を動かす。必要ならば手術翌日から酸素吸入、点滴しながらでも歩行練習をします。ひと昔前では考えられない積極的なリハビリテーションを行い、日常生活動作能力を維持して退院する医療が推進されています。

 話は変わりますが、健康寿命を短くしている最大の原因は脳卒中(脳出血や脳梗塞)です。

 脳卒中はいったん発症すると、約6割の患者さんに何らかの後遺症が残ってしまう非常に怖い病気です。発症させないように脳卒中の基礎疾患である高血圧や動脈硬化、糖尿病の早期発見・早期治療が重要になります。不幸にも発症した場合は、これらの病気をコントロールしながら、機能回復を目指したリハビリテーションに取り組むことが必要不可欠です。

 また、加齢に伴う関節疾患や、筋肉量の低下に伴う転倒、骨粗しょう症による骨折など、いわゆる「ロコモティブシンドローム」も寝たきりの原因です。適度な運動が寝たきり予防・介護予防につながります。

 これらに一役買っているのが地方自治体です。特定健診や後期高齢者健診、がん検診を行っているほか、高齢者を対象にした運動教室を開くなど介護予防に取り組んでいます。

 私は元気だから「今」はリハビリも介護も不要−とお考えのあなた。自身の10年後を見据え、健康な「今」のうちに病院や自治体に相談してみてはいかがでしょうか。

(佐世保市三川内本町、三川内病院外科 部長  Mア 幸司)

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