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2015年12月21日掲載

「PSA検診」

 日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなるといわれています。生涯でがんになる確率は男性で54%、女性で40%。最新の2015年がん罹患(りかん)数予測では、男性の1位は前立腺がんです。男女合わせても大腸がん、肺がん、胃がんに続く4位となっています。

 PSA検診はその前立腺がんの検診で、がん発見率は非常に高いのです。日本対がん協会の13年度の各種がん検診の発見率を見ると、胃がん0・13%、肺がん0・05%、大腸がん0・17%、乳がん0・23%という中、前立腺がんは最も高い0・45%です。

 前立腺がんは一般にはゆっくり進行しますが、患者数の増加に伴い死亡数も上昇しており、年間1万人以上の方が亡くなっています。ただ、早期に発見・治療をすれば他のがん同様に完治を目指すこともできます。

 がんが前立腺だけにとどまり、他の臓器に転移がなければ、手術や放射線治療などの適切な治療を行うことで、10年生存率は80〜90%以上が期待できます。転移している場合は5年生存率が20〜30%に下がりますので、いかに早期発見・治療するかが鍵となります。

 早期発見できるか否かについては、PSA検診暴露率(PSA検査を受けている人の割合)との関連が指摘されています。検診を実施していない、もしくは実施していても受診率が5%以下の自治体では、発見される前立腺がんの約30%が転移がんであることが分かっています。

 日本のPSA検診暴露率は10%程度です。米国の70〜80%に比べて低く、前立腺がんが進行するまで見逃しています。昨年、PSA検診の有効性を評価するヨーロッパ前立腺がん検診の13年時点の成績が発表されました。これまで検診9年後、11年後においても前立腺がん死亡の有意な減少が報告されていましたが、さらなる減少が確認され、有効性があらためて認められました。

 PSA検診の問題点は2次検査である前立腺生検の弊害と、過剰診療や過剰治療です。

 前立腺生検の合併症については日本泌尿器科学会が04年から06年の3年間に行った実態調査があります。治療を要するような合併症は決して多くなく、最も重篤な合併症である「精密検査による死亡」の危険については0・0005%です。他のがん検診の精密検査、例えば上部消化管(内視鏡治療、生検を含む)の0・0076%、大腸内視鏡検査の0・0009%、気管支鏡検査の0・0065%と比較しても決して高いものではありません。

 治療についてはPSA監視療法(前立腺生検の結果、悪性度が低いがんが少量認められただけで、すぐに治療を行わなくても余命に影響がないと判断される場合に、治療せずにPSAなどで経過を見る方法)や、ロボット支援手術、放射線療法などの低侵襲治療が普及してきました。

 日本泌尿器科学会は早期発見に必須のPSA検診の受診率を高めるなどして、前立腺がんでは死なない社会の実現に向けて活動を広げています。

ひさまつ腎・泌尿器科クリニック 院長(長崎市銅座町)  久松 浩

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