>>健康コラムに戻る

2016年5月2日掲載

「アルコールによる健康障害」

 アルコール類と人類との付き合いは紀元前までさかのぼり、お酒は人類にとって欠かすことのない嗜好(しこう)品です。一方、アルコール(エタノール)は脳に作用する依存性薬物でもあります。アルコールを大量に摂取すると、脳機能を抑制すると同時に脳内の神経繊維回路(脳内報酬系回路)に作用し、ドーパミンの放出を促します。

 ドーパミンは快楽に関係する脳内物質といわれます。これによって「酔い」という報酬が得られますが、次第に耐性が形成されて酒量が増えていきます。こうなるとアルコール中断による苦痛から逃れるために不適切な飲酒を続けてしまいます。これがアルコールに依存してしまうメカニズムです。

 違法薬物である覚せい剤やコカインなども全く同様な作用を持っています。このアルコールの持つ依存性によって、さまざまな健康被害や社会的影響が問題となっています。例えば、飲酒運転による悲惨な事故、暴力、虐待、自殺などです。特に自殺に関しては、アルコールの摂取が自殺の促進因子となっていることが指摘されています。

 2010年5月に世界保健機関(WHO)総会で「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」が採択されました。厚労省では、多量飲酒者(1日当たり純アルコールで60グラム以上、500ミリリットル缶ビール3本以上を摂取する人)を、20%以上減少させるという目標を掲げましたが、有効な結果には至りませんでした。

 現在、日本にはおよそ860万人の多量飲酒者がいるといわれ、このうち約109万人がアルコール依存症(自分で飲酒をコントロールすることが困難になってしまう疾患)であると推定されています。

 アルコールにまつわる健康被害、社会的影響さらにはその予防に対する法制度として、国は一昨年6月、アルコール健康障害対策基本法を施行。専門家会議による基本計画が策定されました。

 今年6月からは各自治体において、アルコール健康障害対策推進計画の策定が求められています。推進計画では、不適切な飲酒を早期に是正する対策が必要となるでしょう。

 不適切な飲酒に対して、まずは減酒(飲酒量を減らすこと)から始めるとよいでしょう。減酒を成功させるには、健康な時の自分に変わろうとする勇気と自信を持つことが大切です。

 そのためには周りの人たちが飲酒し過ぎることを責めるのではなく、ご本人が酒を減らす決意をしたことを褒めてあげることです。どうしても自分で酒量をコントロールできないときには、専門医療機関に相談するとよいでしょう。適切な減酒指導によって飲酒量を減らすことができます。

 現在、飲酒量を低減させる治療薬(ナルメフェン)の治験も行われており、数年後には日本でも処方できるようになるかもしれません。少しでも酒量を減らす工夫をし、お酒との適切な関係をつくることで健康な自分を取り戻してみませんか。

(長崎市布巻町)三和中央病院 院長  塚ア 稔

>>健康コラムに戻る