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2016年6月6日掲載

「そけいヘルニア(脱腸)」

 そけいヘルニアは一般に「脱腸」と呼ばれている良性の病気です。両脚の付け根の部分をそけい部といいます。そけい部の腹筋の隙間から腸などの内臓が皮ふの下まで脱出し、その部分が膨らんでしまう状態が「そけいヘルニア」です。整形外科で扱う椎間板ヘルニア(腰のヘルニア)とは別の病気です。

 立ち上がった状態でそけい部が膨らみ、仰向けに寝転がったり手で押さえたりすると膨らみが引っ込む場合には、そけいヘルニアが疑われます。

 そけいヘルニアは放置するとだんだん大きくなり、その過程で痛みや不快感を伴うようになります。非常にまれですが脱出した腸などの内臓が戻らなくなることがあります。

 これを「嵌頓(かんとん)」といい、強い痛みを伴います。嵌頓した腸などの内臓は血流障害により腐ってしまう(壊死する)こともあり、その場合には緊急手術で腐った部分を取り除かなければなりません。そうなる前の治療が望ましいと思われます。

 そけいヘルニアは子どもからお年寄りまでさまざまな年齢の人に起こります。1歳未満の子どものそけいヘルニアは自然に治ってしまうこともありますが、それ以降の年齢では基本的に手術が必要です。

 大人のそけいヘルニアに対する手術は、そけい部の腹筋の隙間をメッシュシートで補強する方法が主流です。メッシュシートは「網戸」を切り取ったような網目状の素材で、ヘルニア手術専用にさまざまな形のものが開発されています。

 手術はそけい部の皮ふを切開する方法で行われることが多いです。最近では内視鏡を用いた方法も全国的に増加してきています。特におなかの中に挿入する内視鏡のことを「腹腔鏡(ふくくうきょう)」といいます。

 腹腔鏡を用いた手術では術後の傷の痛みが少なく、入院期間が短縮できるなどの利点があります。しかし患者さんに全身麻酔をかけることが必要で、手術手技の難易度も非常に高くなります。それぞれの患者さんの状態に応じた手術方法を選ぶことがとても大切です。

 当院では「腹腔鏡下そけいヘルニア修復術」を標準術式として導入しています。腹腔鏡下そけいヘルニア修復術では、へそのくぼみに隠れる程度に2センチ、その両側の少し離れた部分に1センチ、計3カ所を小さく切開します。そこから腹腔内に手術専用のカメラやピンセット、はさみなどを挿入して手術を行います。左右両側のそけい部にヘルニアがある患者さんでも、傷を増やさずに手術することができます。元々の健康状態に問題のない患者さんなら、2〜3泊の入院期間で済みます。退院後すぐに散歩程度は可能です。本格的な運動も2週間後ぐらいからできるようになります。

 そけい部の膨らみに限らず、痛みや不快感など疑わしい症状があれば、早めに専門医を受診することをお勧めします。

 (長崎市葉山1丁目)光晴会病院内視鏡外科部長 進 誠也

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