>>健康コラムに戻る

2016年6月20日掲載

「慢性甲状腺炎」

 甲状腺は首の前側、喉仏のすぐ下にあります。縦4センチほどのチョウが羽を広げたような形です。ごく薄く柔らかい臓器なので、普段は首を触っても分かりませんが、少しでも腫れてくると、手で触ることができます。さらに大きくなれば、首を見ただけで腫れが分かるようになります。このため、「首の腫れ」から甲状腺の病気に気付く人も少なくありません。

 甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、新陳代謝を盛んにしたり、交感神経を刺激したり、成長や発達を促進したりする働きがあります。

 慢性甲状腺炎とは、甲状腺に慢性の炎症が起きる病気です。この病気を1912年に世界で最初に報告した九州大学外科の橋本策(はかる)先生の名前から、橋本病とも呼ばれています。細菌が入り込んで化膿(かのう)するといった炎症ではなく、ある種のリンパ球が甲状腺組織を攻撃して起こるといわれています。甲状腺の病気の中でも特に多く、成人女性の10人に1人といわれています。女性は男性の10〜20倍の頻度で発症し、40〜50歳代に多く見られます。

 症状は全身に現れます。甲状腺が腫れ、甲状腺ホルモンが少なくなるために、顔や手足のむくみ、皮膚の乾燥、寒がり、便秘、脈が遅くなることなどがあります。この他、食欲がないのに全身のむくみから起こる体重増加、心臓を取り囲む袋に水が異常にたまる心のう水の貯留、無気力になって頭の回転が鈍くなることもあります。

 中には、甲状腺の病気だと気付かず、うつ病や認知症だと思われている場合もあります。女性では、月経異常のため更年期障害と間違われることがあり、妊娠しても流産しやすくなります。慢性甲状腺炎であっても甲状腺機能(ホルモン量)はほぼ半数の人で正常です。甲状腺ホルモンが少なくなると新陳代謝が低下し、さまざまな症状が出るので、治療にはホルモンの補充を行います。

 甲状腺機能に異常のない人や、機能が低下しても適切な薬の服用でホルモン量が正常化している人は、日常生活で制限することは何もありません。スポーツ、旅行などを積極的に行うことができます。食事も特に制限はありません。

 ただし、海草類は普通に食べる分はよいのですが、根昆布療法といって根昆布をつけ込んだ水を毎日飲む民間療法はヨードの取り過ぎになり、かえって甲状腺機能低下症になることが知られています。中止すると正常に回復します。通常量のワカメのみそ汁、昆布だしなどの使用は全く問題ありません。

 慢性甲状腺炎では、ホルモン濃度が一時的に上昇したり、次第に低下することもあり、定期的な検査が必要になります。また妊娠、出産に際し、ホルモン量が変動することもあります。この場合も継続的な検査と治療が必要です。

 以上のように、慢性甲状腺炎は、決して難しい病気ではなく適切な治療をすれば何ら問題なく日常を送ることができます。気がかりな症状がある場合は、かかりつけの医師に相談してみてください。

 (長崎市片淵1丁目)白髭内科医院 院長 白髭 豊

>>健康コラムに戻る