>>健康コラムに戻る

2016年8月1日掲載

「前立腺がんの早期発見と治療」

 近年、前立腺がんは増加傾向にあります。数年後には男性のがんの中で罹患(りかん)数が一番多くなると予測され、死亡数も増加するとみられています。前立腺がんの危険因子は、人種、食生活の欧米化、加齢に加え、遺伝的な要因が関与していると考えられています。

 第1度近親者(親、兄弟、子)に前立腺がん患者が1人いた場合、前立腺がんにかかる危険率は2倍になります。2人以上いた場合の危険率は5〜11倍になるといわれています。

 現在、前立腺がんの明確な予防策はなく、早期発見が重要となります。前立腺特異抗原(PSA)とは前立腺から産生されるタンパクであり、血液中のPSA値が高くなるに従って前立腺がんが発見される確率も高くなります。

 PSA検査は前立腺がんの早期発見に有用であり、多くの市町村で前立腺がん検診として普及しています。PSAが高い場合は泌尿器科専門の施設を受診していただき、精密検査が必要かどうかを相談することが大切です。

 PSA検査の普及に伴い、早期に発見される前立腺がんが増加しています。治療法の決定には、PSAやグリソンスコア(がんの悪性度)、臨床病期が重要な因子となります。治療法は手術治療、放射線治療、ホルモン療法、PSA監視療法(治療をしないで経過をみること)などがあります。手術治療や放射線治療は、がんを治す根治的な治療です。

 手術は前立腺と精嚢(のう)を摘出してぼうこうと尿道をつなぎ合わせます。手術方法には開腹手術、より小さな傷で手術を行う腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術、手術支援ロボットを用いた腹腔鏡下手術などがあります。

 放射線治療に関しては、体の外から前立腺に放射線を当てる外照射法と、細い針を用いて放射線物質を前立腺の中に埋め込む組織内照射法があります。外照射による治療法では最近、サイバーナイフを用いた定位放射線治療が保険適用となりました。

 サイバーナイフは高精度のロボットアームに小型の放射線治療装置を搭載しています。高精度のロボットが多方向から正確に病変を狙い、がん細胞をピンポイントで狙い打ちにします。また周囲の正常細胞を安全に保てますので副作用の軽減も期待されます。

 すでに頭蓋内疾患や頭頸(けい)部疾患(咽頭がんや喉頭がんなど)、肺がん、肝臓がんでは保険適用でした。このたび、前立腺がんにも適用が拡大されました。

 前立腺内に金マーカーを留置することにより、治療中の病巣の移動を追尾し、病巣のずれを補正しながら照射します。今後治療効果が期待される治療法です。

 前立腺がんは比較的進行がゆっくりで、予後がいい疾患です。治療法は医学的な見解だけでなく、患者さんのライフスタイルやQOL(生活の質)も考慮して選択されます。

 治療法は日進月歩です。主治医の先生と十分に相談して、自分に合った納得のいく治療法を選択することが大切です。


 (長崎市新地町)長崎みなとメディカルセンター市民病院医長 竹原浩介

>>健康コラムに戻る