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2016年12月5日掲載

「緩和ケアとは」

 緩和ケアという言葉をご存じですか。どんな治療をイメージするでしょうか。一般には「がん末期になったら受ける」「諦めて最期に選択される」「何もしないで死を待つ、ホスピスでしか受けられない」などと解釈されることが多いようです。

 世界保健機関(WHO)が2002年に出した緩和ケアの定義は次の通りです。

 「生命を脅かす疾患に直面する患者と家族に対し、早い段階から痛みや身体的、心理・社会的、さらにスピリチュアルな問題に関して正確に評価。それらが障害とならないよう予防、対応することで生活の質(QOL)を改善するためのアプローチ」
 少し分かりにくいかもしれませんが、これにはがん以外の病気も含まれ、早期のうちから当人と家族の生活を支えるケアであるといえます。

 日本人の3人に1人ががんで亡くなる時代となりました。がんは病状により手術、抗がん剤、放射線などの療法が選ばれます。手術には術後の疼(とう)痛、抗がん剤には吐き気、放射線には皮膚炎といった副作用が起こることがあります。副作用に対策を立てるのも緩和ケアの一つです。

 がんと診断されると、落ち込みや悲しみを感じ、人生への問いや、迫り来る「死」への恐怖などさまざまな精神的状態も経験します。これらの精神的症状を早期からケアすることも含まれます。

 がん患者さんの約7割の人に痛み、いわゆるがん性疼痛が出現するといわれています。QOLを落とす痛みへの対策は大切なケアです。痛みには鎮痛剤や医療用麻薬を使いますが、日本ではまだ、医療用麻薬の使用量が欧米と比べて不十分だといわれています。

 医療用麻薬はがんの痛みに対して非常に有効な薬です。麻薬中毒のイメージがあるのか敬遠して我慢する人もいますが、痛みがある状態で使用すると中毒にならないことが分かっています。

 医療用麻薬には内服薬(粉薬・錠剤・液薬)、貼り薬、座剤、注射剤などの種類があります。さらに、痛みを取るために必要な量には個人差があるので、一人一人の状態と痛みの程度に応じた薬を選ぶ必要があります。薬を使うことによって起こる副作用も含め、主治医や看護師、場合によっては緩和ケア専門医と話し合い、医療用麻薬を使います。

 緩和ケアに関わるスタッフは医師だけではありません。看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、リハビリ専門職、管理栄養士などが患者さんやご家族が直面している問題に対応します。

 さまざまな症状に対する緩和ケアは、自宅でも、治療中の病院でも、緩和ケア病棟でも受けることができます。自宅療養中で緩和ケアを受けたい人はかかりつけ医、病院の主治医や地域連携室、地域包括支援センターなどへご相談ください。

 緩和ケアは病気の人を支える大切なケアであり、さまざまな苦痛が緩和されれば笑顔を取り戻すことができます。遠慮せずに「緩和ケアを受けたい」と伝えてください。

 (長崎市梁川町)奥平外科医院 院長  奥平 定之

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