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2016年12月19日掲載

「脳神経内科(脳内科)で診る脳卒中」

 脳卒中とは卒然として邪風に中(あた)るという意味の言葉です。「脳血管障害」とも呼ばれ、脳の血管が詰まって起こる「脳梗塞」と、脳の細い動脈が破れる「脳出血」、脳の動脈にできたこぶ(動脈瘤(りゅう))が破れる「くも膜下出血」に分類されます。脳卒中の約7割を占める脳梗塞は、脳内科の出番です。脳内科とは聞き慣れない言葉ですが、手術をせず内科的に脳卒中を予防し治療を行う診療科です。

 脳卒中の特徴は、突然生じることです。片側に起こる「顔、手足のまひやしびれ」、「ろれつが回らない」「言葉が出ない・理解できない」といった言葉の症状や、足元がふらつく、視野の一部が見えなくなる、物が二重に見えるといった症状があります。

 急性期の脳梗塞の診療は、ここ10年で革新的な進歩がみられました。まずコンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)の診断技術の向上により、脳の状態を詳しく把握できるようになりました。さらに、これまで心臓や腹部に用いられてきた超音波検査(エコー)で、脳の血流、血管の詰まりなどの情報を体に負担をかけずに把握できるようになりました。

 治療では、発症後すぐに「t−PA」という注射薬を静脈内に点滴すると詰まった血栓が溶けて劇的な効果が期待できます。しかし発症後「4時間半以内」に治療を開始する必要があります。長い時間が経過すると脳の神経細胞が壊れ、回復不能となるからです。そのため、日頃から万が一に備えて病気に関する知識を身に付け、症状が現れたら直ちに救急車を呼び、一刻も早く病院を受診することが重要です。

 脳梗塞には、動脈硬化によって細い動脈が詰まる「ラクナ梗塞」、大きな動脈が詰まる「アテローム血栓性梗塞」、心臓の中にできた血の塊が剥がれて脳の動脈に流れ込んで起こる「心原性脳塞栓(そくせん)症」があります。

 心原性脳塞栓症は心房細動という不整脈が主たる原因です。従って、予防は血圧と脈のチェックが第一です。ただ、病気になるまで自分が高血圧や心房細動を有していることに気づかない人がいます。健康診断を受ける機会が少ない人は注意してください。

 一方で「抗血栓薬」の内服による予防が必要となる場合があります。血が固まりにくくなる副作用(出血傾向)があるため安易な服用は好ましくありません。心原性脳塞栓症にはワルファリンと呼ばれる抗凝固薬が長年用いられてきましたが、納豆など食事制限があったり、他の薬との相互作用で効果が不安定になったりすることがありました。最近、そのような欠点を克服した新規抗凝固薬が使用できます。

 ひとたび脳卒中にかかれば、まひやしびれなどの後遺症で寝たきりを含む要介護の状態となり、本人だけでなくご家族にも大きな負担が生じる場合も少なくありません。私たちは、皆さんの「脳の健康」を守り、ご家族ともども安心した暮らしができますように、ご支援させていただきます。どうぞお気軽に受診してください。


 (長崎市新地町)長崎みなとメディカルセンター脳神経内科 主任医長  六倉 和生

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