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2017年1月16日掲載

「禁煙のすすめ」

 最近、鼠径(そけい)ヘルニア手術後の再発疑いで70代男性をある病院へ紹介した。「2週間禁煙ができたら再診。手術日の相談はそのときに」と言われたとのこと。急がない手術なので術中、術後の状態を万全にするためだろう。大いに賛成である。患者さんは禁煙され、無事手術を終えて現在も禁煙は続いている。

 もう1人は60代後半の重症肺気腫の人。常時、毎分3リットル以上の酸素を吸入していないと日常生活ができない。外来で「もっと早く禁煙の指導をしてほしかった」と嘆かれる。医師に対する重要な戒めとして受け止めている。

 さて昨年2月に「健康都市東京−生活習慣における禁煙−」という都民公開講座が開かれた。国立がん研究センターの望月友美子先生は日本で毎年13万人が喫煙で、6800人が受動喫煙で死亡していると紹介。「喫煙者は余命が10年短縮するが、40歳までに禁煙すれば非喫煙者の余命に戻る。日本の喫煙率は20%で下げ止まっている。さらに下げるにはたばこ広告禁止・たばこ税値上げと、禁煙環境を増やす必要がある」と説く。

 国立成育医療センターの原田正平先生は妊娠中に喫煙すると低体重児の発生が2倍になること、受動喫煙が小児の中耳炎の原因となり得ることを説いた。

 医師で、とげぬき地蔵高岩寺住職、禁煙活動家としても高名な来馬明規氏は、たばこを「地球の慢性感染症」として報告。

 原料生産地に関しては、国内で消費されるたばこ製品の8割以上が海外産の葉タバコに由来すること。その諸外国の葉タバコ農園では、10歳未満の子どもたちが奴隷のように働かされていること。葉タバコ生産は「最悪の小児労働」とされ、日当10円ほどの低賃金で通学もせずに働かされていること。作業中にニコチンが経皮吸収され、急性中毒「緑タバコ病」を繰り返しながら命を失う子どももいるとのこと。

 葉タバコ耕作は環境も破壊する。たばこ産業側から高値で買わされた化学肥料・農薬が土壌を汚染し、葉タバコ乾燥用の燃料調達のために無秩序な森林伐採が横行していること。その一方で、国際価格の20倍も割高な葉タバコを作っている日本の農家は最盛期の1割未満に縮小。耕作者は既に6千人を割り込み、廃作奨励金が支給されているという。「だから国内の農民保護を根拠にしたたばこ擁護は虚構だ」と手厳しい。

 最後に、禁煙指導で一番難しいのは「禁煙するとストレスがたまる」と訴える患者さんがいること。最近の学術雑誌BMJによると、禁煙は「メンタルに影響を与えるか」という臨床的問いに「禁煙は不安・抑うつ、その混合といった症状を改善する」といった結果が得られている。私たちもこれに力を得て、禁煙指導に心掛けたいと考えている。

 皆さんもぜひ禁煙活動にご協力くださいませんか。


長崎市医師会 会長  小森 清和

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