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2017年3月6日掲載

「『きず』の話」

 
 「きず」とは、一般には体の表面に何らかの力が加わり、皮膚や皮下組織にダメージが生じた状態を指します。転んで擦りむいた擦過創(さっかそう)、包丁などの刃物による切創、あるいは手術による切開創なども含まれます。

 こういった「きず」は大きく分けると表面が縫合された閉鎖創と「きず」が露出している開放創に分かれます。閉鎖創では身体内の細胞が「きず」の周囲に集まり、組織を接着するような力が働いて治ります。縫合に用いる糸は組織が接着するまでの補助的な力と考えてください。

 一方、開放創では「きず」の周囲や底面の皮膚が再生して治ります。従って、組織の欠損が大きければ「きず」の治りにも時間がかかりますし、治った後も「きずあと」が目立つものとなります。

 やけどは、浅い場合には「きず」の下に皮膚の細胞が残っているため、その細胞により皮膚が新たに再生します。しかし深く広い場合には、自然な再生は期待できないため、手術により自分の皮膚を移植することが必要になります。

 以前は「きず」は乾燥したら治りやすいといわれたこともありました。最近では、創傷被覆材という「きず」の表面を覆い、しっとりとした環境を保つ衛生材料を使用することで良好な治りにつながることが分かっています。このように「きず」がどのようにして生じたのか、どんな状態にあるのか、といったことが治療に大きく関係しています。

 「きず」には治りやすいものと、そうでないものとがあります。健康な方は、適切な治療を受けることで「きず」は順調に治ります。しかし治りにくい状態の方は、治るのに時間がかかるだけではなく、化膿(かのう)することや「きず」が広がることもあります。

 時には命に関わることもあります。貧血、糖尿病、動脈硬化による血行障害などの病気をお持ちの方や透析治療を受けている方などは、巻き爪や靴擦れなどの小さい「きず」がなかなか治らないこともあります。このような状態を難治性潰瘍と呼びます。

 このようななかなか治りにくい「きず」に対しては、原因となる病気に関わる先生方と一緒に、「きず」の状態に応じた治療を行わなければなりません。

 「きず」が治るのに時間がかかった場合には「きずあと」の幅が広がり、盛り上がったような、いわゆるケロイドとなってしまいます。きれいな、目立たない「きずあと」となるためにも適切な治療を受けることが大切です。

 「きず」の専門家である形成外科医は、患者さん一人一人の状態に応じた適切な治療を選び、少しでも早く、良い状態で「きず」から解放されるように努めています。「きず」や「きずあと」でお悩みの方はぜひ、お近くの形成外科医にご相談ください。

(長崎市坂本1丁目)長崎大医学部形成外科教授  田中 克己

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