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2017年6月19日掲載

「脳の画像検査」

 
 認知症は記憶や判断力の障害などが起こり、意識障害はないが、社会生活や対人関係の支障が6カ月以上続いている状態で、老いに伴う病気です。

 わが国では、認知症の有病者が軽度を含め462万人と推測されています。生活に何らかの助けを要する認知症の患者数は、介護保険データの推計で373万人(2017年)とされています。年齢を重ねるほど認知症発症のリスクは高く、今後も増え続けると予想されます。

 日常生活への影響がほとんどなく、認知症と診断できない軽度認知障害は約400万人いると考えられており、このうち年10〜15%が認知症に移行します。

 代表的な認知症には「アルツハイマー病」「レビー小体病」「脳血管性認知症」の三つがあります。アルツハイマー病が最も多く、物忘れや言葉が出にくい、次第に家事・仕事の段取りができなくなる、迷子になる、などの症状がゆっくりと進行します。重度になるとコミュニケーションを取ることができなくなります。

 レビー小体病は病初期に幻覚や幻視、妄想を伴います。徐々に物忘れや動作が遅くなるなどの症状が出てきます。脳血管性認知症では梗塞や出血による障害部位によって、さまざまな症状が生じます。

 認知症は病歴、身体診察や神経心理検査など総合して診断されますが、鑑別困難なことも多くあります。その際、脳の形態や障害部位を見るために磁気共鳴画像(MRI)やコンピューター断層撮影(CT)、脳血流を見るために放射性同位元素を用いた核医学検査(SPECT)が主に行われます。

 最近は、健常人の脳画像データを用いて認知症の画像をコンピューターで解析することで、正常と異なる部位を表示することができるようになりました。アルツハイマー病では、側頭葉内側が正常な人と比べ早く小さくなる(萎縮する)ことが知られています。MRIでは発症の早い段階で起こるわずかな萎縮も評価できるようになりました。

 SPECTでは、アルツハイマー病にみられる頭頂葉内側の血流低下、レビー小体病にみられる後頭葉の血流低下といった、わずかな血流の変化でも検出できます。

 ただ正常な状態と軽度認知障害、認知症の間で、これらの特徴に重なりがあります。複数の認知症が合併することもあるので、画像だけで診断や鑑別はできません。では、どのようなときに画像検査を受けるとよいのでしょうか。

 認知症で最も大切なのは回復可能な状態なのか、手術を必要とする疾患なのかどうかを判断することです。例えば血液の塊による脳への圧迫や、梗塞後の変化、できもの(腫瘍)、脳を取り囲む液体の排せつが滞った状態(水頭症)など、認知症以外の病気を除外することが必要です。画像検査は認知症やそれ以外の病気の診断に役立ちます。

 画像検査は治療可能な病気を見逃さないことが大切で、脳萎縮の経過をみるために安易に繰り返すものではありません。画像検査を受ける際は、目的や限界を分かった上で、必要性や結果の説明を受けていただくようお願いします。

(長崎市坂本1丁目)長崎大学病院放射線科准教授  森川 実

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