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2017年8月7日掲載

「増え続ける心不全」

 いま高齢化社会にあって、今後人口は減少するにもかかわらず心不全で入院する患者さんは増え続けることが予想されています。

 心不全とは心臓のポンプ機能が低下して、全身の臓器に必要な血液量を送ることができなくなった状態です。この状態に加え、風邪などの感染症、塩分の過剰摂取、過労、ストレス、内服治療の中断などが引き金となり、むくみ、息切れ、呼吸困難、倦怠(けんたい)感、食欲不振、動悸(どうき)などの症状が現れます。

 心不全の原因には、高血圧性心臓病、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患(心臓の血管が詰まる病気)、心筋症(心臓の筋肉が弱る病気)、弁膜症(心臓の弁が逆流したり開きにくくなる病気)、不整脈(脈が速くなったり遅くなったりする病気)など多くの心臓病が挙げられます。

 心不全は再入院するたびに心機能は悪化していきます。日本循環器学会の急性心不全ガイドラインによると、再入院率は30〜45%と高く、入院の平均在院日数は21日と長く、死亡率は7%と高率です。では心不全を予防にするにはどのようにすればよいのでしょうか。

 やはり原因となる心臓病の治療が最も大切です。高血圧は心臓の負担を大きくし、心臓の筋肉を肥大・劣化させていくため、コントロールがとても重要です。虚血性心疾患では血管を広げるカテーテル治療や冠動脈バイパス術が有効です。心臓弁膜症に対しては弁置換術といった手術の選択肢があります。脈が遅い不整脈はペースメーカー治療、脈が速い不整脈はカテーテルアブレーション治療があります。

 食事は特に塩分管理が重要です。日本人の1日の平均摂取量は11グラムですが、6グラムへの減塩が推奨されています。薄味に慣れる、漬物やみそ汁の量に気を付ける、「かけじょうゆ」から「つけじょうゆ」にするなどの工夫をしましょう。

 主食(ごはん・麺・パンなど)、主菜(肉・魚・卵など)、副菜(野菜・海藻・きのこなど)をバランス良く摂取することも大切です。アルコールも控えめに。ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合が適量です。

 運動療法や心臓リハビリテーションも重要です。最近は有酸素運動を行うことで死亡や再入院が減ることが分かっています。通常は心肺運動負荷試験の結果で運動処方を行います。負荷試験ができない場合は、歩行、体操、自転車こぎなど軽く息が弾む程度の運動を30分から1時間程度、できれば毎日行うよう指導しています。

 薬はACE(エーシーイー)阻害薬、アンジオテンシンU拮抗(きっこう)薬、β(ベータ)遮断薬、抗アルドステロン薬などが心機能の低下した心不全の死亡率を低下させ、入院を減らす効果があることが分かってきました。

 本県は全国平均より高齢化が進み、離島・へき地が多く医療機関の受診が困難な人もいます。心臓に負担の掛かる坂道の多さも特徴です。しかし一番大切なのは患者さん自身の心不全への理解、管理かもしれません。

 当院では医師、看護師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーがチームをつくり心不全治療に取り組んでいます。自覚症状や日々の運動、服薬状況、血圧、体重などを記載する独自の「心臓病手帳」を作成し、心不全に対する患者教育と自己管理を支援しています。心臓病のある人は気軽にご相談ください。 
 

(長崎市新地町)長崎みなとメディカルセンター心臓血管内科 医長  古殿 真之介

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