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2017年8月21日掲載

「高齢者のうつ病」

 失恋のショックなど、生活上のさまざまな出来事によって、人は誰でも「気分がすぐれない、やる気が起きない」といった状態になることがあります。しかしほとんどの場合、時間の経過やちょっとしたきっかけで回復します。

 ところがうつ病の場合は、憂うつな気分が長く続き、何もする気になれず、ひどくなると「死んでしまった方が楽かも」などと考えるようになったりします。

 以前からうつ病は「心の風邪」などと呼ばれ、心の問題のように思われる人も多いようですが、実はれっきとした体の病気です。セロトニンやノルアドレナリンといった脳内の神経伝達物質の機能異常によって起こり、医学的な治療を要します。

 うつ病になると、意欲や興味の喪失、思考力・集中力の低下、気分の落ち込みや悲観的な考えなど、つらい症状に見舞われ、仕事や家事ができなくなるなど日常生活にも大きな支障を来します。特に中年以降、初老期から老年期にかけては「うつ病になりやすい誘因」が増えてくる時期といわれます。

 一つに体調の変化があります。無理が利かなくなる、視力や聴力が落ちる、物覚えが悪くなるなど身体機能が落ち、体のあちこちに不具合が出てくるのがこの時期です。もう一つの誘因としてはさまざまな喪失体験が挙げられます。

 仕事を退職したり、子どもたちが独立したり、自身が大きな病気にかかるなどがこれに当たります。さらに高齢になると、友人や配偶者との死別など、より大きな喪失を体験し、それがきっかけでうつ病になることも少なくありません。

 高齢者のうつ病の特徴は意欲低下、生きがいや興味の消失、不安やイライラなどです。不眠、めまい、体の痛みなどの身体症状もよくみられます。特に注意が必要なのは、認知症と紛らわしい症状が多くあることです。「一日中、ぼーっとしている」「反応が鈍い」「受け答えがちぐはぐ」などの症状から認知症だと思ったら、実はうつ病だったということがあります。(逆の場合、両方の場合もあります)

 こういった症状やいつもと違う様子がみられたら、早めに専門医を受診することが大切です。心療内科や精神科を気軽に受診してもらいたいのですが、抵抗がある場合は、まずかかりつけ医に相談してもよいでしょう。

 治療には主に「抗うつ薬」が処方されます。これは「脳内伝達物質の放出量を増やす」薬剤です。飲むと次第に不安や憂うつな気分が軽くなり、意欲や思考力も改善してきます。最近ではSSRIやSNRIといった副作用の少ない新薬が主流です。

 いずれにしても症状が悪化する前に、治療を受けるようにしなければなりません。うつ病は適切な治療を受けると改善される病気です。普段から積極的な会話や適度な運動をすることも、予防として大切です。定年後も新たな仕事を続ける、趣味の習い事に通う、ボランティア活動に参加するなどして社会とのつながりを保つようにしたいものです。

(佐世保市権常寺町)西海病院 院長  逸見 嘉之介

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