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2017年11月20日掲載

「おたふく風邪と難聴」

 おたふく風邪は正式名称を「流行性耳下腺炎」といいます。3歳から6歳ごろに多くかかる伝染病です。ムンプスウイルスに感染し2〜3週間の潜伏期間を経て、片側もしくは両側の唾液腺が腫れます。

 今年9月、日本耳鼻科学会からの報告が報道で大きく取り上げられたのをご存じでしょうか。「2年間でおたふく風邪のために少なくとも348人が難聴となり、そのうち15人は両側難聴、80%の人は高度難聴で日常生活に支障を来している」というのです。

 今まで元気に過ごしてきたお子さんがおたふく風邪で急に聴力を失い、年少児であれば特別の訓練をしないままでいると、話せるようになった言葉も急速になくしてしまいます。

 おたふく風邪にかかって実際に難聴になる人は、100〜500人に1人と報告されています。両側とも難聴になれば、当然日常生活が困難になるため、人工内耳の植え込み手術を受け、補聴器を装着することになります。しかしこれは予防できる難聴であるということを覚えておいてください。

 予防接種には、無料でできるものと一部が公費で補助されるものとがあります(公費負担の範囲は市町によって異なります)。おたふく風邪ワクチンには現在、公的な補助はありません。ワクチン接種は1歳過ぎに1回目、年長児で2回目が推奨されています。いずれも任意接種のワクチンです。任意とは、してもしなくても良いという意味ではなく、補助の対象にはなっていないと解釈しています。先進国でワクチンが定期化されていないのは日本だけです。

 2年間での耳鼻科医の調査で300人以上の難聴の子どもがいることが判明しています。さらに小児科なども加わった大規模調査がなされれば、難聴例数は600例を超すという深刻な事態であることが推察されます。

 当院でのおたふく風邪ワクチン接種の実数を調べてみました。ここ1年間の接種数は322人でした。同年齢で同時期に受ける全額補助の麻疹・風疹ワクチンの接種数は373人でした。おたふく風邪ワクチンの料金は当院では7200円です。接種数は無料で受けられる麻疹ワクチンの86%とほぼ差がないことが分かります。

 全国の平均接種率は40%程度です。当院では予防接種のプランを決める際、最初からおたふく風邪をスケジュールに入れ説明することで、接種率が高まっているものと考えられます。有料ではありますが、丁寧に説明することで家族の意識は高くなっていることが分かります。

 一方、おたふく風邪で受診する人は毎月のようにいます。合併症としては難聴の他に無菌性髄膜炎、膵炎(すいえん)、卵巣炎、精巣炎、副精巣炎などがあります。

 一般に、合併症としてかかる難聴の程度は高度で深刻です。聞こえない、しゃべれないという病気を1回か2回の予防接種で防げるなら、それに越したことはありません。さらに接種に補助が付いて、受けやすい社会にするのは私たち大人の責任だと思います。

(長崎市本原町)中山小児科クリニック 院長  中山 紀男

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