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2017年12月4日掲載

「乳がん 薬物療法」

 近年、乳がんにかかる人は年々増え、最新のデータでは日本人女性の8%(12人に1人程度)といわれています。しかし乳がんの予後(治りやすいかどうか)は比較的よく、治療の重要性もここにあります。

 がんの治療は大きく分けて、手術、放射線治療、薬物療法があり、乳がんもこれに準じます。手術、放射線治療は「局所療法」であり、薬物療法は「全身治療」とされています。手術には乳房切除術と乳房温存術があり、温存術の場合、残した乳房に放射線治療を施すことがほぼセットになっています。

 放射線治療は前述した乳房温存術後の乳房に対する治療とともに、リンパ節転移が中等度以上陽性の場合に行う胸壁、鎖骨上への照射があります。局所療法の詳細はまた別の機会に譲るとして、今回は全身治療である薬物療法について解説します。乳がんの薬物療法は大きく分けて次の3種類があります。

 ▽化学療法 抗がん剤を使用する治療です。手術の前と後に用いる補助化学療法と、進行・再発がんに対する治療があります。補助療法の場合は4〜8コース行われることが一般的です。そもそも抗がん剤はがん細胞そのものにダメージを与え、できれば細胞の死に追い込むことが目的です。このため正常細胞にも一定の障害があることが多く、脱毛や吐き気などの副作用はこのために起こります。

 副作用に対する治療はここ何年かの間に随分進歩してきています。現在では乳がんの抗がん剤治療で吐くことはほとんどありませんし、外来で行えることがほとんどです。副作用が厳しい場合は薬の減量や休薬期間の延長を行います。
 ▽内分泌療法 ホルモン剤を使用する治療です。これは、がんがホルモンと結合するホルモンレセプター陽性の患者さんに限られます。乳がん患者さんの約80%が対象です。

 ホルモンレセプター陽性の患者さんは、女性ホルモンのエストロゲンががん細胞にくっつくことで増殖のスイッチが入るため、エストロゲンのレベルを下げたり、エストロゲンががん細胞にくっつかないようにする薬物を用いたりします。

 副作用として更年期障害のような症状が起こりやすくなります。しかし症状を和らげるために女性ホルモン補充療法を受ければ、がんに対する治療の効果がなくなります。主治医以外の医療機関にかかるときは必ず現在の治療について紹介状をもらうなどしてください。内分泌療法のホルモン剤は閉経の前と後で使う薬物が違い、期間は5〜10年と長くなってきます。

 ▽分子標的治療 比較的最近の治療法です。がん細胞だけを標的とする治療で、比較的副作用の少ない薬物です。ただし魔法の薬ではなく、皮膚の症状など一定の副作用もありますので注意が必要です。補助療法としては1年間くらい使用します。

 以上簡単に乳がんに対する薬物療法について解説しました。がんの治療薬は高価で副作用もありますが、効果も大きいので主治医とよく相談して治療に臨むことが大切です。

(長崎市茂里町)日赤長崎原爆病院 副院長  谷口英樹

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