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2017年12月18日掲載

「生活習慣病と排尿障害」

 年齢を重ねるにつれて、排尿トラブルの頻度が増してきます。皆さん、お悩みではないでしょうか。
 排尿のトラブルの中でも、特に夜トイレに起きる夜間頻尿や、急な尿意でトイレに駆け込まなければならない尿意切迫感は患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。

 最近これらの排尿障害は、男性の前立腺肥大症や女性の骨盤の筋肉の緩みだけが原因ではなく、高血圧や糖尿病といった生活習慣病と密接な関係があることが分かってきています。

 特に高齢で高血圧の治療がうまくできていない患者さんでは、正常の人と比べて昼間、交感神経(血圧を上げる作用)の働きが比較的強くなります。すると血管が細くなり腎臓の血流が低下して尿の産生が滞ります。逆に夜間、交感神経系の働きが弱くなると尿の産生量が多くなり夜間多尿を引き起こします。すなわち夜間に作られる尿の量が増えるために、頻尿になります。

 糖尿病の患者さんでは、尿の中に多量に排出される糖のコントロールが難しいことが多く、尿を薄くしようと腎臓から水分が多く排出されるようになります。そのことが原因で頻尿になり得ます。

 さらに高血圧や糖尿病はいずれも膀胱(ぼうこう)や前立腺といった排尿に関係する下腹部の骨盤周囲臓器の血流障害を引き起こし、膀胱容量が低下します。膀胱のサイズが小さくなると、尿意が敏感になって排尿のために何回もトイレに通わなければならず、頻尿で困ってしまいます。

 頻尿や尿意切迫感といった排尿症状が強い患者さんに対しては、主に抗コリン薬やβ受容体刺激薬といった「膀胱を広げる作用」を持つ薬が処方されます。しかし、生活習慣病にかかっている患者さんでは、すでに多くの薬を内服されていることもあります。薬の相性や副作用なども考えて、処方することが重要です。

 現在、頻尿改善薬に関しては従来の錠剤のほかに、口の中で溶ける薬剤(口腔(こうくう)内崩壊錠)や貼り薬などさまざまな形態のものがあります。このように最近では患者さんのニーズに合わせた薬を処方することが可能になってきています。

 薬剤による治療とともに大切なのが日常生活の見直しです。「暴飲暴食をしない」「減塩を心がける」「水分の取り過ぎに注意する」「体が冷えないようにする」「ウオーキングなどの運動を定期的に行う」−。これらは生活習慣病の治療や予防だけでなく、夜間頻尿や尿意切迫感にも効果的です。

 長崎大学病院泌尿器科では、排尿障害の治療の一環として、塩分摂取が多い患者さんには薬物療法だけでなく、減塩に向けた栄養指導を行っています。減塩に成功した患者さんでは、夜間頻尿や尿意切迫感に改善がみられた人が多くいます。

 これから寒さが増し、排尿症状が強く現れやすい季節になります。生活習慣をもう一度見直すとともに、症状がひどいようであれば一度泌尿器科への受診をお勧めします。



(長崎市坂本1丁目)長崎大学病院泌尿器科・腎移植外科助教  松尾朋博

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