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2018年1月15日掲載

「アドバンス・ケア・プランニング」

 「父の最期は、本当にこれでよかったのだろうか?」「胃瘻(ろう)や点滴をしてほしくはなかったのでは?」「家で最期を迎えたかったのでは?」
 ご両親やご家族など身近な人を亡くした後、最終決断を下した自分に対して自責の念を抱いた人もいるのではないでしょうか。

 日本は近年、世界に類を見ない超高齢化社会へ突入しています。国は「地域包括ケアシステム」の実現により、住み慣れた地域で最期まで自分らしく生きられる地域社会を目指しています。

 人生の終焉(しゅうえん)に「生きていてよかった」と思える終末期ケアを確立するために、アドバンス・ケア・プランニングが重要となってきます。

 アドバンス・ケア・プランニングは「事前医療・ケア計画」「患者の意思決定支援計画」などと呼ばれています。「今後の治療や療養について、患者さんと代理人、医療従事者があらかじめ話し合う過程」と定義されています。代理人は、患者さんが判断能力を失った際、患者さんに代わって治療方針を決定してくれる人です。家族のことが多く、複数でも可能です。

 アドバンス・ケア・プランニングの流れは以下のようになります。まず患者さんは、今後起こりうる状況について医療従事者から説明を受け、受けたい医療と受けたくない医療を明らかにします。そして自分に代わって治療方針を決定してくれる代理人を決定します。

 患者さんと家族、医療従事者が話し合いの場を持って患者さんの希望を共有します。こうすることによって患者さんの意思が尊重されやすいですし、病状の変化に合わせて、適宜見直されるという利点もあります。

 日本では死について話し合うことが、まだまだタブー視されています。親が自分の死について話し合おうとすると、子どもたちや配偶者から「縁起でもない」と断られます。子どもから親の死について話し合おうとすると「財産狙いか」と誤解され、親子関係がギクシャクしたりします。

 しかしそこに医療従事者が入ると、本来の目的がはっきりし、円滑な話し合いができるようになります。患者さんの希望や情報を医療従事者と共有していれば、いざ代理人が患者さんに代わって治療方針を決定しなければならなくなった際、医療従事者のアドバイスを受けて心の負担を軽減することができます。

 厚生労働省は現在、人生の最終段階における医療体制整備事業の一つとして「患者の意向を尊重した意思決定のための研修会」を全国の医療従事者向けに実施し、相談の受け皿作りをしているところです。

 時間と手間がかかりますが、自分らしい最期を考えることは、自分らしい人生を生きることでもあります。自分の人生を大切に考える一つのチャンスとして、まずはあなたの思いをかかりつけ医へお聞かせください。

長崎市医師会 理事  土屋 知洋

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