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2018年3月19日掲載

「動脈にできる「瘤」」

 「動脈瘤(りゅう)」という言葉を聞いたことがあると思います。動脈が正常な直径より1・5倍に拡大すると動脈瘤と診断されます。脳から足先まで、体のあらゆる動脈にできる可能性があります。中でも一番頻度の高い「腹部大動脈瘤」についてお話しします。

 大動脈は、心臓の左心室から送り出された血液がまず通る体の中で最も太い血管です。弾力があり、数ミリの厚い壁でできています。送り出された血液はこの大動脈を通って全身に運ばれます。心臓から横隔膜までを胸部大動脈、横隔膜から下の部分を腹部大動脈といいます。

 患者さんから「食事が原因ですか」と質問をよく受けます。食事も成因の一つですが腹部大動脈瘤の危険因子は加齢、高血圧、高脂血症、喫煙、家族歴、男性(女性の約4倍)などで、これらの因子が合わさった結果と説明しています。

 腹部大動脈瘤の問題点は、破裂するまで症状がないこと。欧米では「サイレントキラー」、すなわち静かにそっと忍び寄るキラー(生物を殺す人)と表現されています。

 私が外来で紹介を受ける腹部大動脈瘤の患者さんの多くは、検診で受けた腹部超音波検査やたまたま他の疾患に対して行ったコンピューター断層撮影(CT)などで初めて指摘を受けた方々です。症状のないことが診断の遅れにつながり、結果的に破裂を来たし治療を困難にしています。

 治療は破裂のリスクと治療に伴うリスクのバランスで決められます。破裂のリスクは動脈瘤の大きさと大きくなる速度が重要なポイントになります。大きさは4・5〜5センチ、また半年間で0・5センチ以上拡大する場合も治療の適応です。焼いた餅のように一方だけ膨らんだタイプ(のう状瘤)は破裂しやすく、小さくても治療適応となります。

 サイズが小さく治療適応とならない場合は、定期的に超音波検査やCT検査で大きさをフォローアップしていく必要があります。よく「(動脈瘤を)小さくする薬はないのですか」と質問されますが、有効性が証明された薬物は残念ながらありません。

 治療法は外科治療が行われます。開腹による「人工血管置換術」と、開腹を行わず足の付け根から血管内治療を行う「ステントグラフト内挿術」があります。この二つの治療法にはそれぞれ利点、欠点があります。術前検査を十分に行い、動脈瘤の形や広がり方、患者さんのコンディションなどから、より適した手技を選択することになります。

 特に合併症がなく破裂する前に治療できた場合、死亡率は0・5%未満と、安全な手技になりつつあります。しかし破裂すると現代の医療をもってしても治療成績は悪く、運よく手術室まで搬入できても死亡率は30%前後と非常に高率です。腹部大動脈瘤の治療方針の大原則は、破裂する前に治療することです。

 危険因子が多い方は、検診で腹部の超音波検査を受けることをお勧めします。「動脈瘤」と診断されたら「破裂する前に診断がついてよかった」と考えていただき、治療方針決定のため専門医に気軽にご相談ください。

(長崎市新地町)長崎みなとメディカルセンター心臓血管外科
主任診療部長  橋詰 浩二

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