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2018年4月2日掲載

「がんの放射線治療」

 早期肺がんの放射線治療についてお話しします。肺がんの中でも腺がん、扁平上皮がんなどいわゆる“非小細胞肺がん”のI期についてです。

 I期とは早期がんのことで、肺がんでは「元のがんの大きさが直径3センチ以下でリンパ節への転移がない」状況です。正確には、元のがんが3センチ以下でも気管支の中枢側(根元)や胸膜などへ進展する病変ではI期から除外されたり、元のがんが4センチでもリンパ節転移がない病変はI期に分類されます。

 このような早期肺がんに対する最も有効で確実な標準治療は手術です。全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2006〜08年に診断を受けた患者さん)によると、I期肺がんの手術による5年相対生存率は83・9%と報告されています。

 I期がんに対する手術は有効な治療法ですが、患者さんの中には、高齢の人や、併存する疾患をお持ちの人もいます。手術ができなかったり、術後の肺機能が維持できなかったり、あるいは、手術を絶対に受けたくないと考える人もいます。

 このような場合に、手術に代わる根治的治療としてがんの完全治癒を目指すのが、切らずにがんを治す放射線治療です。特に肺がん病変をピンポイントに狙い撃つ定位的放射線治療です。

 この治療は、さまざまな方向からがんに集中してピンポイントに放射線を照射する方法です。1日1回30〜50分程度、4日間ほどで終了します。治療中に痛みなどはなく、日常生活を送りながら、外来通院での治療も可能です。県内では、当院はじめ六つのがん診療連携拠点病院などで治療を行っています。

 I期肺がんに対するこの治療の成績はどのようなものでしょうか。国立がん研究センターを中心とした日本臨床腫瘍研究グループによる臨床試験の、手術ができない患者さん100例を対象にした解析では、治療を受けてから3年後に患者さんが生存する確率(3年生存率)が59・9%、治療を行った元の肺がんをコントロールできる確率(3年局所制御率)が87・3%という成績です。

 手術は可能でも定位的放射線治療を選択された患者さん64例では、3年生存率76・5%、3年局所制御率85・4%という成績が得られています。

 手術と定位的放射線治療を直接比較した臨床試験ではありませんので、単純に比較することはご法度ですが、手術の次善の策として、定位的放射線治療がI期肺がんに対して役割を果たすことができる可能性を示した結果です。

 手術ができない患者さんは肺がん以外の重篤な疾患を抱えていますので、このような患者さんへの定位的放射線治療では生存率が劣るのもやむを得ない事情です。

 I期の早期肺がんは、標準治療として手術、患者さんの状況によっては代替治療である定位的放射線治療により治癒を目指すことができます。ただし、まず大事なことは、早期のうちに肺がんを発見できるよう、患者さんもわれわれも心掛けていくことです。

(佐世保市平瀬町)佐世保市総合医療センター 放射線科 部長  溝脇 貴志

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