2018年5月6日掲載
「爪とミズムシ」
皆さんはこの表題を見て、少し妙だと感じられたでしょうか。
ミズムシと言えば、おじさんの足の指辺りにできて、かゆい皮膚病という印象かもしれませんが、実際にはミズムシと思われないような、軽く皮がむけたぐらいで、ほとんど症状のないミズムシのほうが多いのです。
日本人は、30%(!)ぐらいがミズムシを持っているとも言われています。ミズムシの原因菌は、白癬(はくせん)菌(正式には皮膚糸状菌)と呼ばれるカビの仲間で、爪にも入って爪ミズムシと呼ばれる病気を起こします。
私たちは全身を皮膚で覆われていますが、その最外層はケラチンという硬いタンパク質が主な成分となっています。このケラチンを栄養として生きているのが白癬菌です。カビの特徴として湿気を好む性質があり、このために靴を履く足の指の間などが彼らの生活の場となりやすく、これがミズムシという皮膚病です。爪もケラチンでできているので白癬菌の餌食になり、これを爪ミズムシと呼んでいます。
爪に白癬菌が侵入するのは、ほとんどが周囲のミズムシからと考えられています。爪が白く濁る、厚くなる、あるいはぼろぼろに崩れる−などが爪ミズムシの症状です。高齢者ではこのような爪を持っている人が多いのですが、そのかなりの部分が爪ミズムシです。
ところが残念なことに、このような爪の症状は、他のたくさんの皮膚病でも起こります。爪ミズムシと診断し治療するためには、そのような爪の一部をとって顕微鏡で調べ、そこに白癬菌がいることを証明するカセイカリ鏡検法があり、皮膚科で受けることができます。
爪ミズムシの治療に最近大きな変化がありました。数年前までは、爪ミズムシの治療に有効なのは内服薬(飲み薬)だけとされていました。そこに、有効な外用薬(塗り薬)が加わったのです。いったん変化した爪は、生え変わる以外に元に戻ることはないので、爪ミズムシの治療は、内服薬、外用ともに数カ月かかることになります。このため治療を始める前に、まず診断をはっきりさせておくことは非常に大事なことです。
飲み薬では、全身的な副作用や、特に高齢者では既に多くの薬を飲んでいるため、それ以上の薬を飲むことに抵抗があるなどの問題点があります。一方、外用薬の副作用は爪周囲のかぶれぐらいで、使いやすいため、これからの爪ミズムシの治療には外用薬の占める割合が大きくなると思われます。
いったん爪ミズムシになってしまうと、治療のための経済的、時間的な負担が大きくなります。ほとんどの爪ミズムシは、その前に周囲にミズムシがあり、そこから感染すると考えられているので、足のミズムシをしっかり治療することが将来の爪ミズムシを防ぐのに大きな効果があると考えられています。
足は生活の基盤です。時には、はだしになって足の健康を確かめることを強くお勧めします。
(長崎市樺島町)長崎掖済会病院 顧問 皮膚科医師 西本 勝太郎
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