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2018年7月16日 掲載

「がん治療と地域診療連携」

 いまの日本では2人に1人ががんに罹患(りかん)、3人に1人ががんで死亡するという時代になっていますが、一方でがんの約半分は治療で治ってもいます。ひと昔前のように、患者さん本人には「がん」であることを隠し通して治療やみとりをするような時代でもありません。がんの病名や病勢を経時的にありのまま説明しながら、今後の治療やケアを患者さん本人と相談して決めていく時代です。

 がんになった場合の問題として、がんそのものによる症状(疼痛(とうつう)や出血、発生した臓器・組織特有の症状)があるのは当然ですが、がんに対する治療、すなわち手術や抗がん剤治療、放射線治療の影響・副作用による症状が問題になることもあります。さらにがんになったことで生じる将来への不安や職場・社会で生じる問題などがあります。

 がん治療というものは、この「がん」のみに対する治療であって、治療後の副作用や社会生活での問題までは治してくれません。仮にがん治療が奏功してがんが治ってしまったとしても、これらの副作用や問題を解消できぬままその後の人生を送らざるを得ないことも珍しくないのです。

 がんの治療に関しては、そのがん種ごとに専門的な医師たちによって行われます。当然、がん治療に伴う副作用に対してもさまざまな対応をしてくれますが、すべて解決できるとは限りません。がん治療の結果生じたハンディや精神的苦痛に対応するには、医療だけでは限界があることも多いのです。

 そこで患者さんの生活の支援に重要となってくるのが地域診療連携なのです。専門的ながん治療を請け負う病院では、高度のがん治療や精密検査も行えますが、患者さんの日常生活の細やかな支援まではどうしても手が行き届きません。一方、患者さんの自宅近辺で、普段からがん治療の支援をしてくれる「かかりつけ医」的な先生を持つと、患者さんは日常生活上の大きな支援を得やすくなります。これらの先生方は、がん治療病院の先生と病状に関する情報を共有しながら、患者さんの病態に応じた医療や細やかな対応、ケアを提供することに熱心です。

 最近ではがんになって手術を受ける患者さんの場合、手術が終わって退院する時から「がん診療連携クリティカルパス」というものを使って、地域の先生と連携診療を始めることも多くなってきました。決して再発するとは限らないのですが、再発の不安を抱えながら生活していくのですから、最初から自分のがんの情報を共有してもらって二つの医療機関で診療を受けていくと安心だと思います。

 再発した患者さん、進行がんを抱えた患者さんが、がん治療病院とかかりつけ医の両方に通院していく「緩和ケア連携パス」といった診療連携の試みも始められています。

 二つの医療機関にかかることを煩わしく感じる方がおられるのも事実ですが、「がん」という病気の特性を考えた時、この診療連携というものは、がんの患者さんやその家族の方にとって大いに役立つと思われます。

(諫早市永昌東町)地域医療機能推進機構諫早総合病院 副院長
がん治療センター長  山口 広之)


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