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2018年8月20日 掲載

「嗅覚障害」

  朝の挽(ひ)き立てのコーヒーの香り、公園のキンモクセイの香りなど、私たちの日常にはさまざまな「におい」があふれています。「におい」がないと食事などの楽しみが失われるだけでなく、日々の暮らしがつまらないものになってしまうこともあります。

 私たちの左右の鼻の孔(あな)の奥には鼻腔(びくう)という空間が広がっています。鼻腔の天井に当たる部分に嗅粘膜(きゅうねんまく)と呼ばれる部位があり、空気中のにおい物質がこの嗅粘膜に付着します。嗅細胞がキャッチした情報は嗅球という部分で処理されてから脳に伝達され、「におい」として感じます。この嗅覚を感じる仕組みのどこかに異常があると、「におい」を感じにくくなります。

 嗅覚障害の原因として最も多いのは慢性副鼻腔炎で、次いで感冒、頭部外傷の順とされています。特に、ポリープ(鼻茸(はなたけ))を伴う慢性副鼻腔炎では、鼻呼吸にて吸い込んだにおい分子を含む空気が、嗅細胞の存在する嗅裂(きゅうれつ)部に到達できないために生じます。アレルギー性鼻炎が原因となることもあります。鼻づまりによる嗅覚障害がこれに当てはまります。

 「風邪が治ったのに、においが分からない」ものを感冒後嗅覚障害といい、中高年の女性に多いとされています。風邪をひいた際、鼻粘膜の腫れや鼻水により嗅覚低下を自覚することがあります。多くは風邪症状の消失に伴って回復しますが、嗅細胞のウイルス感染により嗅細胞が傷害され、嗅覚障害が持続すると考えられています。

 慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎では、鼻腔内の診察やファイバースコープを使った鼻内の観察による局所所見、画像検査で診断することが可能です。一方、感冒後嗅覚障害は、鼻内の観察では異常を認めないことが多く、問診が決め手となりますので、もし心当たりがあるようでしたら「風邪をひいた後からにおいがしなくなった」ということを医師に伝えることが重要です。

 嗅覚障害の治療は原因疾患により異なりますが、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎では、それぞれの病態に応じて、内服治療やステロイド鼻内局所投与、もしくは手術療法などが選択されます。しかしながら、感冒後嗅覚障害に対しては、ステロイド薬の有効性は限定的とされています。

 近年、漢方薬の有用性が示されてきていますが、効果を実感するようになるまでには長くかかることが多く、根気強く治療を継続することが必要です。

 日常生活で、「におい」の脳トレーニングを行うことが注目されています。食べ物や草花など身の回りの「におい」を何のにおいか意識しながら嗅ぐ訓練をします。例えば、仕事の合間にも「コーヒーのいい香り」と思いながら嗅ぐなど、いろいろな「におい」を嗅ぐことを習慣づけてみてください。

(長崎市銅座町)江上耳鼻咽喉科・めまいクリニック 副院長  江上 直也

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