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2018年9月3日 掲載

「脆弱性骨折の手術治療害」

 近年の高齢化社会により、骨粗しょう症患者の治療は重要なものとなっています。
 骨粗しょう症では骨の強度が低下し、わずかな外力による骨折でも、骨の破壊が甚大なものになることもあります。このように転倒などの軽微な外力で起こる骨折を脆弱(ぜいじゃく)性骨折といいますが、その数は増加の一途をたどっています。

 脆弱性骨折が起こりやすい部位として、上肢は上腕骨近位部、肘関節周囲、手関節部、下肢は大腿(だいたい)骨近位部に多く認めます。また四肢だけでなく脊椎や骨盤などの体幹部にも認めます。

 脆弱性骨折による日常生活機能の低下を防ぐには、できるだけ速やかに受傷前と同等の運動を開始することが重要となります。そのためには骨折部の安定化、疼痛(とうつう)緩和が必要となります。

 脆弱性骨折の中でも手術治療となる可能性が最も高い部位は大腿骨近位部です。保存治療では長期間の安静を強いられ、肺炎や褥瘡(じょくそう)などさまざまな合併症を来しやすいため、できるだけ早期に手術を行うことが必要です。骨折型に応じて、骨折した骨を金属でつなぐ骨接合術、あるいは人工物に置き換える人工骨頭置換術などの方法がありますが、いずれも術後すぐに荷重を開始できるような手術を行うことが重要です。

  上肢の脆弱性骨折は、下肢より保存治療の適応が多く、転位が大きくない場合などギプスや装具などで治療する場合があります。ただし、数週間の外固定による関節の可動域制限や変形癒合などの合併症を来すこともあります。

  近年インプラントの発達により、強固に骨折部を固定することで術後早期に運動することが可能となり、以前より手術適応が増加しています。上肢は細かな作業を行えるように筋肉や腱(けん)などの機能をできるだけ損なわないような手術が重要になります。

 体幹部である脊椎や骨盤の脆弱性骨折の多くは、保存治療の適応となります。脊椎はコルセット装着などの保存治療が主となりますが、経過中に骨癒合不全や神経症状が出現することもあり、圧潰(あっかい)した椎体(ついたい)を戻してセメント注入する方法や、上下の椎体を固定するなどの手術が必要となる場合もあります。骨盤も同様に保存治療が主となります。ただし骨盤輪後方部の転位が大きい場合や、疼痛が強く残存する場合は、手術治療を行うこともあります。

 また骨盤脆弱性骨折の特徴として、骨折型が増悪することがあります。受傷時は、恥骨などの骨盤輪前方のみの骨折が経過中に仙骨や腸骨などの骨盤輪後方まで骨折してしまうことがあります。そのような場合も手術適応となります。

 骨盤の手術で重要なことは、限られた適切な位置にスクリュー等を挿入することで、固定力を強くすることです。また出血しやすい部位のため、可能な限り低侵襲で行うことが望ましいです。

 高齢者に多い脆弱性骨折は合併症を有することがほとんどで、手術治療に当たって生活習慣病や呼吸器・循環器など内科的疾患の治療、骨粗しょう治療、理学療法など、整形外科だけでなく多職種連携による周術期や術後のケアが重要となります。

(長崎市虹が丘町)虹が丘病院 整形外科  福島 達也

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