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2018年11月19日 掲載

「嚥下障害」

 食べ物や飲み物を上手に飲み込めないことを嚥下(えんげ)障害と言い、口から食道へ入るべき物が間違って気管に入ることを誤嚥(ごえん)と言います。

 嚥下障害の原因となる疾患には、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)や、パーキンソン病、口・喉の腫瘍などがありますが、高齢者では原因となる明らかな病気が無くても嚥下機能の低下が起こります。

 アルツハイマー型認知症でも食事が十分に摂(と)れなくなることがありますが、アルツハイマー型認知症の食事摂取量減少は、食物や食行為の認知の障害に起因するもので、喉の通りが悪くなる嚥下障害は、病状がかなり進行するまで起こらないことが普通です。一方、レビー小体型認知症では早期から嚥下障害が出現します。

 嚥下障害の特徴的な症状は食事中の頻回の「むせ」です。また、湿性嗄声(させい)といって、ガラガラとうがいをするような声も嚥下障害の特徴です。特にむせやすいのは喉を通るスピードの速い水やお茶などの水分です。

 むせや湿性嗄声以外にも、食事の時間が長くなる、特定の飲み込みやすい形態の食べ物だけしか食べなくなった、体重が減りだしたなどが嚥下障害を疑うエピソードです。

 嚥下障害で、最も注意すべき合併症は窒息です。お正月に餅を喉に詰まらせることによる死亡事例は毎年報告されています。餅以外にも、肉の塊やパンなどでも窒息は起こりますし、急いでかき込むように食べることで窒息の危険性は高まります。ご飯を食べるときには、よくかんでゆっくり食べるようにしましょう。

 窒息の次に注意すべき合併症は、誤嚥性肺炎です。誤嚥性肺炎は食べ物、飲み物の誤嚥で起こることはまれで、夜間の就寝中に唾液とともに口腔(こうくう)内の細菌を誤嚥してしまうことが主な原因と考えられています。誤嚥性肺炎は特に高齢者によく起こることが知られています。予防するためには、口腔内の清潔を保持することが重要です。歯科受診や就寝前の歯磨きを念入りに行うことをお勧めします。

 似た病気に誤嚥性肺臓炎があります。特に夜間(夕食後数時間)に、1〜2日間の短い期間の発熱が頻回に起こることが特徴です。誤嚥性肺臓炎は、嘔吐(おうと)や就寝中の胃液の逆流による胃の内容物の誤嚥によって起こります。胃切除後や逆流性食道炎で治療を受けたことのある人は、特に注意が必要です。15度程度、上体を少し起こして就寝することで予防します。

 嚥下障害が重度になり、食べ物、飲み物が十分に摂取できなくなると、脱水や低栄養になります。脱水や低栄養になると誤嚥性肺炎発症の危険性も高まりますので、飲み込みやすい形態のものをしっかり摂取して、十分な栄養を摂り続けるようにしましょう。

 水分摂取が困難な場合には、トロミ剤を使用して水分に少しトロミをつけると飲み込みやすくなります。重度の嚥下障害のために栄養がしっかり摂取できない人でも、嚥下のリハビリテーションを行うことで症状の改善が期待できます。

 嚥下障害かな? と思ったら、歯科医師やかかりつけの医師にご相談ください。

(長崎市坂本1丁目)長崎大学病院リハビリテーション部 准教授  高畠 英昭

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