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2018年12月3日 掲載

「ロボット手術」

 近年、さまざまな分野で活躍している“ロボット”ですが、医療の中でも活躍の場を広げています。今回はロボット手術を紹介したいと思います。

 ロボット手術としてはダ・ヴィンチシステムを用いた手術が最も有名で、全世界で2016年までに約3800台が稼働しています。昨今の医療ドラマで見かけた方も多いでしょう。
 ロボット手術といってもロボットが独自の判断で自動手術をするわけではなく、外科医がコンソールといわれるコックピットのような場所で、ロボットの操作(手術)を行います。

 ロボット手術の優れた点は、高解像度の立体感を持った画像(3Dビジョン)、2本の指を持った手関節のような動きができる多関節機能を持った鉗子(かんし)、手ぶれ補正機能などが挙げられ、従来の腹腔(ふくくう)鏡手術ではなしえなかった複雑で繊細な手術操作が可能となりました。ロボットの優れた機能を用いて精緻な手術を遂行するということから「ロボット支援下手術」と正式には呼ばれます。

 わが国では12年4月から前立腺がんに対する前立腺全摘術において保険が適用され、18年4月からは食道手術、胃手術、直腸手術、肺手術、縦隔手術、婦人科手術でも保険適用が認められました。県内では長崎大学病院のみが上記術式の導入を順次進めており、18年11月現在までに前立腺がん・直腸がん・子宮腫瘍(良性)に関して、ロボット手術が運用されています。

 私が専門とする直腸がんの手術について少しお話しします。直腸は骨盤という狭くて深い骨格の中にある臓器で、排尿や排便機能、性機能に関わる重要な自律神経によって取り囲まれています。骨盤の中は非常に狭い上に、男性でしたら精嚢腺・前立腺、女性でしたら子宮・膣が隣接しており、その境目は薄い結合組織で隔てられています。あたかも“ふすま一枚でお隣さんのお家”といったところでしょうか。

 従来から行われていた開腹手術では、狭くて深い骨盤の中で明瞭に神経を視認しながら手術するのが難しいことが多く、近年は腹腔鏡を用いて手術を行う施設が増えていきました。腹腔鏡によっておなかの奥底まできれいに見えるようになったのですが、腹腔鏡手術用の鉗子での操作は時に難しく、難度の高い手術とされています。

 しかし、ロボット手術の登場で今まで以上に、格段に深部骨盤内での操作性が向上し、神経線維一本一本分離し、“とるべきもの”と“残すべきもの”を正確に分離して手術をすることが可能になりました。これにより泌尿・生殖器系の術後障害を軽減させることが期待されています。

 しかしロボット手術には欠点もあります。それは“触覚の欠如”です。ロボットを介した手術ですので、操作する術者の手には患者さんの組織を持った感覚が伝わりません。ロボットは力が強いので意図せぬ組織の損傷が生じる可能性が出てきます。このような欠点を補うべく、ロボット手術を操作する術者は視覚で触覚を補うようなトレーニングを重ねています。

 利点欠点を十分に理解した上でロボット手術を提示するように心がけていますので、ご不明な点は何でも専門医にご相談ください。

(長崎市坂本1丁目)長崎大学腫瘍外科 大腸・肛門外科 講師  野中 隆

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