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2019年3月3日 掲載

「サイコオンコロジー」

 聞き慣れない言葉だと思いますが、日本語では「精神腫瘍学」と訳されます。心理学(サイコロジー)と、「がん」を扱う腫瘍学(オンコロジー)を組み合わせた造語で、1980年代に確立された、比較的新しい分野の学問になります。簡単にいうと、がんと心の問題を専門的に扱う医学の一分野です。

 現在の日本では、2人に1人は一生涯で何かしらのがんにかかり、亡くなる方の3人に1人は、がんが原因とされています。がんという病気は自分から遠い存在に感じるかもしれませんが、実は身の回りにありふれている病気なのです。

 では、がんにかかって治療を行っている方のうち、どのくらいの方が心の問題を抱えているのでしょうか?

 その答えは意外に多く、がん患者さんのうち50%、つまり2人に1人は何らかの精神科診断がつくといわれています。診断名としては、一番多いのは適応障害(不安、抑うつ)という病気で、次にうつ病になります。がんという病気が原因で心の問題を抱えることになるのですが、精神科のお薬の治療が必要になる場合もあります。

 がんという病気は治療のこと、治療費などの経済的なことや家族のこと、仕事のこと、自分自身の存在そのものなど、さまざまなところに影響を及ぼしてきます。病気が治っても治療の副作用で悩まされたり、再発の不安があったり、この響きの悪い言葉である「がん」と、ずっとお付き合いしていくことになります。

 そのためには、体だけでなく心のケアも必ず必要になります。なぜなら、人間は体と心を切り離すことはできないからです。また「がん」という言葉は、多くの人に死を連想させるといわれています。
患者さんが普段の生活の中で何かしら体調が悪いと感じるとき、それはがんが原因なのではないか? と想像することで、心にも大きな影響を及ぼすことが、しばしばみられます。
調子が悪いのは「がんだから」「気持ちの問題でしょう」という一言では簡単には片付けられず、体の原因をまず考えていくことが大切になります。体の中に原因となる病気がないことを確認して初めて、「心の問題かもしれない」と考えることが重要になってきます。

 また、「家族は第二の患者」といわれています。がん患者の方だけでなく、そのご家族の方も同じように悩みを抱え困っていることが、しばしばあります。
がんという病気と付き合っていくためには、がん治療だけでなく、患者さん、ご家族の方々の心のケアも同時に行い、日々の生活を支えていくことが、とても大切になります。その部分を担うのがサイコオンコロジーの役割であり、サイコオンコロジスト(精神腫瘍医)は、がんと心の専門家といえます。

(大村市杭出津1丁目)おおむら海辺のクリニック 院長  遠山 啓亮

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