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2019年4月1日 掲載

「汗」

 本稿では、汗に関する話題をご紹介させていただきます。汗は「臭い」や「汗染み」などのように嫌な面に注目が集まりがちですが、体が健康な状態を維持するための、大切な役割を持っています。

 汗の代表的な役割の一つが体温調節です。例えば、真夏の暑い日に家の軒先に打ち水をしたり、体に霧状の水を浴びたりすると涼しくなります。水が蒸発するときに生じる気化熱は、地表や皮膚から熱を奪います。汗は皮膚表面で、打ち水と同じような効果をもたらすのです。

 そのほか、汗に含まれる抗菌ペプチド、天然保湿因子は、それぞれ病原体から体を守り、皮膚を潤して乾燥を防ぐことで、皮膚を健康な状態に保つ効果を発揮します。さらに、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)の悪影響を軽減する効果も確認されています。汗は最前線で体を守っているのです。

 汗が出ないと皮膚の温度は上昇し、ドライスキンを生じ、さらに皮膚の病原体への抵抗性が損なわれます。体温も上がりますので、熱中症のリスクが上昇します。例えば、体重70`の人が体温を1度下げるためには、100ccの汗をかく必要があると試算されています。体温調節に必要な量の汗がかけないと、熱中症を生じます。

 暑い場所に行くと、皮膚にチクチクとした痛みを生じ、じんましんや熱中症のような症状を呈する疾患がありますので、このような症状で、お困りの方は皮膚科にご相談ください。

 アトピー性皮膚炎の方も発汗異常が生じており、ゆっくりと、少しずつしか汗をかけないことが分かっています。

 アトピー性皮膚炎の発汗異常の原因として (1)皮膚の炎症が発汗機能を低下させること (2)皮膚表面に出てくるべき汗が、皮膚の中で漏れること− が確認されています。このため、保湿や抗菌といった汗のメリットが得られにくい上に、汗が皮膚の中で漏れることにより、汗をかく瞬間に、痛がゆさが生じると考えられます。

 皮膚炎を治療することで、汗を適切にかけるようになれば“汗を味方に付ける”ことができ、皮膚のコンディションを良い状態で維持できるでしょう。アトピー性皮膚炎の治療は、炎症を抑える外用薬が主体となります。近年では注射による治療も、条件を満たす方には提供することができます。治療を行いながら、汗をかく機会(運動や入浴など)が得られればいいですね。

 逆に、多すぎる汗も皮膚トラブルの原因となります。脇など皮膚同士の密着する部位が、汗で蒸れた状態で放置されると、皮膚表面を覆う角層がふやけて剥がれやすくなります。摩擦によって角層が剥がれ、発赤の生じた状態を間擦疹(かんさつしん)と呼びます。

 また、汗でぬれた皮膚を衣類などで長時間にわたり密閉すると、あせも(汗疹)が生じます。汗をたくさんかいた時は放置せず、シャワーを浴びる、おしぼりで拭う、ぬれた肌着を着替えるなどの対策を行うことが大切です。

(長崎市坂本1丁目)長崎大大学院医歯薬学総合研究科皮膚病態学分野 教授  室田 浩之

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