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2019年4月14日 掲載

「新生児医療」

 「未熟児」という言葉を聞いたことがあると思います。「身体の機能が未熟な状態で生まれた赤ちゃん」を意味しており、一般的には身体の小さな赤ちゃんのことです。

 医学的には「早産児」「低出生体重児」と呼ばれ、発生頻度は出生数の7%とされています。近年、日本の出生数は減少していますが、早産児、低出生体重児の数は増加しています。

 早産は、母体または胎児生命の危機という理由から発生するので、防止することは困難です。しかし、周囲の家族が早産になる理由を適切に理解しておくことは、出産前後の母体や、赤ちゃんの養育環境にとって非常に大切なことです。

 出産というのは、子が、へそや胎盤を通して呼吸している子宮内の環境から、自ら呼吸をする子宮外環境への大冒険であり、人生の中で最も生命が脅かされる瞬間ともいわれます。定期的な妊婦健診では、母体、胎児の異常や変化を確認しており、妊婦健診で異常が指摘されなければ、出産という瞬間に大きな問題が起こる可能性は低いことになります。

 一方で、母体、胎児のいずれかに異常が認められるようであれば、産婦人科への入院や、場合によっては、高次医療機関への緊急母体搬送が行われることもあります。

 また、妊娠経過が順調でも、出産直前に突然、母体や胎児に異常が発生することもあります。出生時に子宮内の環境から子宮外への適応がうまくいかず、新生児に呼吸の補助など、何らかの医療介入を必要とする割合は5%、心肺蘇生を必要とする割合は0・1%とされています。

 特に、早産児や低出生体重児では、体温管理も含めた全身的な集中治療が必要となり、新生児集中治療室(NICU)への入院が必要となります。待ち望んでいた赤ちゃんがNICUへ入院すると、家族の不安は非常に大きくなりますが、日本の新生児死亡率は世界で最も低く、千人当たり0・9人となっています。

 NICUへの入院期間は、妊娠週数や赤ちゃんの状態にもよりますが、数週間から数カ月と、一般的な入院と比べれば長く感じるかもしれません。そのために新生児がNICUに入院すると、お母さんが自分自身を責めることもあります。しかし、母体または胎児の生命が危機となり出生しているので、家族が状況を正しく理解し、母と子を支え、心のケアを行うことも非常に大切です。

 日本の周産期医療システムは、母子手帳を用いた世界に誇れる妊婦健診、産婦人科での母体管理、NICUでの集中治療管理、小児科での乳児健診、予防接種で成り立っています。適切なタイミングでの産婦人科受診は、母体、胎児、新生児の生命を守るという意味があることから、定期的な妊婦健診を心掛けるようにしてください。

(長崎市新地町)長崎みなとメディカルセンター新生児内科 主任医長  平川 英司

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