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2019年5月4日 掲載

「訪問診療の現状と将来」

 診療の場としては現在、外来と入院の二つが大部分ですが、三つ目の「訪問診療」が今後、大切になっていきます。

 高齢化の進行に伴う心臓、肺などの慢性疾患による息切れや、動悸(どうき)、腰痛、膝痛での歩行障害、脳卒中の後遺症による手足のまひなどで、1人で歩行できなくなった患者は、外来通院が困難になっています。若者の流出と核家族化、さらに「2025年問題」といわれる、団塊の世代が75歳を迎える時期には、少子化の影響が顕著になり、介護に当たる人材そのものが不足していくことになります。

 このような“医療難民”を守るためには、介護保険サービスを利用した通院介助や送迎援助が求められています。一方、従来は病院での長期入院を余儀なくされていた人々については、介護保険制度のおかげで在宅医療へのシフトが進んでいます。

 医療の場は自宅、老人ホーム、老健施設、グループホームなど医療機関以外の生活の場に広がっており、これらをひとまとめにして在宅医療といいます。往診を含む訪問診療は年々需要が増加していますが、対応可能な医師の数は残念ながら十分ではありません。日本医師会は、開業医については「午後から地域へ」、患者については「ほとんど在宅、時々入院」を合言葉に、できるだけ多くの医師が訪問診療に参入するよう促しているところです。

 在宅医療を維持するためには多職種の連携が必要です。医師、歯科医師、薬剤師、訪問看護師、訪問介護士、リハビリ士などが共同し、患者さんの情報を共有することが大切です。その調整役としてのケアマネジャーの役割が、最も重要になっています。

 特に昨今、課題とされるのは、がん患者の在宅医療の構築です。比較的若い年齢の患者が多く、残された時間をできるだけ家族と過ごしたいと願うのは当然のことであり、そのために、訪問看護師を中心とする連携が重要です。医師1人では決して在宅医療の継続はできません。

 島原医師会の5人の会員でつくる在宅支援チームの活動を紹介します。

 1人の患者に対し主治医、副主治医を決めて互いの関係を深め、主治医が留守の際は副主治医が往診を代行することで患者、家族の安心を保障しています。2017年7月から18年6月までに、225人の患者さんに対し3025回の訪問診療が行われました。そして、29人の在宅みとりを行いました。

 うち19人が自宅で、10人が介護施設で死亡されましたが、全体の約半数はがん患者でした。島原市の年間死亡者400〜500人からすればわずかな数ですが、患者、家族の思いに寄り添えたと自負しているところです。

 市民の皆さんには是非とも、かかりつけ医をお持ちいただきたいと思います。そして「動けなくなったら往診できますか?」と尋ねて下さい。多くの医師が「できるだけ対応いたします」と答えるはずです。

(島原市津町)林内科医院 医院長  林 敏明

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