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2019年5月20日 掲載

「風疹とおなかの赤ちゃん」

 あなたが知らないうちに、隣にいる妊婦さんのおなかの赤ちゃんに、障害を与える可能性があるとしたら、どうしますか?

 昨年から流行が拡大している風疹。2018年は2917人の報告がありましたが、今年は4月時点で既に千人を超す報告があり、今後さらに多くなると予想されています。

 風疹は風疹ウイルスによって起こる感染症で、主な症状は3、4日程度の発熱と発疹、さらに50%くらいの人は、耳の後ろのリンパ節が腫れます。まれに脳炎や紫斑病(出血しやすくなる病気)になることがあります。

 しかし、風疹の怖さは「先天性風疹症候群」にあるといえます。妊娠20週ごろまでの女性に感染すると、おなかの赤ちゃんも胎内感染してしまいます。生まれてきたときに耳が聞こえない(難聴)、目が見えない(白内障、網膜症)、心臓の病気、精神や身体の発達の遅れといった、あらゆる症状がみられます。早くに亡くなってしまうことや、障害を抱えてしまう可能性があります。

 なぜ風疹は流行するのでしょうか。大きく二つ理由があります。一つ目は、風疹になったか分かりにくいことです。風疹にかかっても20%ぐらいの人は症状が出ない「不顕(ふけん)性感染」であるため、気付かないことがあります。また4人に1人はせきや鼻汁、関節痛の症状が出るので、かぜと診断をされることもあります。

 二つ目はウイルスの感染力が強いことです。発疹などの症状が出る1週間前から、症状が出て1週間後まで、インフルエンザよりも強い感染力があるといわれています。感染の有無を調べる際にはインフルエンザのような迅速な検査方法がなく、確定診断には血液検査や風疹ウイルスの遺伝子検査が必要になります。このため、診断までに1週間以上かかります。

 治療の特効薬はありませんが、代わりにワクチンで予防することが可能です。1回の接種で95%、2回の接種で99%の人に免疫ができるといわれています。しかし、妊娠中には接種ができません。接種後、2カ月の間は妊娠を避ける必要があります。

 妊娠中に風疹の抗体価(感染しにくさを示す数値)が低い場合には、パートナーや同居の家族に抗体の確認やワクチン接種が推奨されます。小児では、1歳時と小学校入学前の6歳時に2回、麻疹(はしか)・風疹混合(MR)ワクチンが無料で接種できます(定期接種)。

 成人については、1962年4月2日〜79年4月1日生まれの男性は定期接種の対象でなかったため、今後、3年間のうちに市町村からクーポン券が発行される予定です。無料で抗体検査を受けられ、抗体がなければ接種もできます。

 また、県内では妊娠を希望している女性や家族らが抗体検査を無料で受けられます。長崎、佐世保両市保健所と県県央保健所(諫早市)で行っており、詳しくは各保健所に問い合わせてください。赤ちゃんを先天性風疹症候群から守るためにも、抗体検査やワクチン接種を徹底しましょう。

(長崎市万屋町)やなぎクリニック 院長  蛛@忠宏

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