>>健康コラムに戻る

2019年6月17日 掲載

「出生前診断」

 出生前診断は、赤ちゃんの健康に影響を及ぼす疾患について妊娠中に検査し、その結果が妊娠・分娩(ぶんべん)管理の決定に寄与することを期待して実施されます。従って、すべての妊婦にとって必要な検査ではありません。妊婦とそのパートナーのカップルは、妊娠している胎児のことを考えて診断を受けるか否か判断し、検査後も、結果に伴うさまざまな選択を自己決定しなければなりません。

 診断結果は人工妊娠中絶につながる可能性もあり、特に胎児に何らかの疾患があると診断されたとき、カップルは短期間のうちに、自身ではなく胎児の生死に関わる重大な選択を迫られます。

 また、出生前診断には検査の限界があり、出生前に診断可能な疾患は一部で、全ての胎児疾患を出生前に診断することは不可能です。カップルは検査前後の遺伝カウンセリングを通じて、検査の意義、倫理的問題、検査の精度と限界、検査結果への対応などについて理解することが必要とされます。

 出生前診断は、十分な遺伝医学の基礎的・臨床的知識のある専門職による、適正な遺伝カウンセリングが提供できる体制下で実施されるべきだと、日本医学会並びに日本産科婦人科学会のガイドライン・見解に記載されています。

 同学会などが編集した「産婦人科診療ガイドライン−産科編2017」には「染色体検査・遺伝子検査は、遺伝カウンセリングを行った後、インフォームドコンセント(説明と同意)を得て実施する」ことが明記されています。実施の重要度を示す「推奨レベル」はA(実施が強く勧められる)とされています。すなわち、遺伝医療の専門職による遺伝カウンセリングは必須なのです。

 出生前診断の検査法には「確定的検査」と「非確定的検査」とがあります。

 確定的検査は、妊娠中の胎児が罹患(りかん)児であるか否か診断を確定する検査です。母体の腹部に針を刺して羊水や絨毛(じゅうもう)を採取し、胎児の染色体やDNAを調べますが、わずかに流産や破水などのリスクを伴います。

 一方、非確定的検査では、超音波検査や母体からの採血検査で、妊娠中の胎児が罹患児であるリスクが高いか否かを推定します。しかし、非確定的検査で陽性だったとしても、診断の確定には確定的検査が必要になります。

 出生前診断の遺伝カウンセリングでは、カップルが妊娠している胎児についてよく考えて、胎児の何を、いつ、どこまで、どのようにして知りたいのか、検査の意義を理解できるよう支援していきます。その際「出生前診断を受けない」という選択肢も必ず提示されます。

 長崎大学病院の遺伝カウンセリング部門には、遺伝医療の専門職である臨床遺伝専門医並びに認定遺伝カウンセラーが在籍し、県内の出生前診断に関する遺伝カウンセリングについて対応しています。出生前診断について不安や悩みを抱えている方は、同部門までお問い合わせください。

(長崎市坂本1丁目)長崎大学病院産婦人科 教授  三浦 清徳

>> 健康コラムに戻る