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2019年7月1日 掲載

「再生医療」

 「再生」というと、トカゲのしっぽを思い浮かべる人も多いかも知れませんが、人間の体を構成する組織も、ある程度は再生することが分かっています。有名なのは肝臓で、正常ならば70%くらい切除しても元通りになります。肝臓ほど劇的ではないですが、体のほとんどの組織も再生するのです。血液、皮膚、腸粘膜などがその代表です。

 実は組織のほんの一部に、さまざまな細胞を作り出すことができる“すごい細胞”があり、この能力を持つ細胞を「幹細胞」、組織や臓器を形成する大部分の細胞を「体細胞」と呼びます。再生医療は、このような元々体の中にある再生する力を利用して、病気やけがなどで失われた機能を戻すことを目的とします。

 残念ながら、それぞれの組織にある幹細胞(体性幹細胞)を取ってきて、臓器をまるごと再生することはできません。すべての臓器を作ることができるほど万能な細胞は、受精卵から作られた「ES細胞」だけです。そして本来、赤ちゃんになれる細胞を利用することは、倫理的に非常に問題があります。

 そこで「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」の登場です。2012年にノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥先生は、驚くことに、体細胞からES細胞と同じくらい万能な幹細胞を作ることに成功しました。iPS細胞は体中のいろいろな細胞になれることが知られており、14年には実際に、iPS細胞から作った網膜の細胞の移植手術が成功しました。

 今後、iPS細胞から肝臓や腎臓などを、そっくり作ることができるようになるかもしれません。まれな病気の人の細胞からiPS細胞を作って、いろいろな薬を試すことで、新しい治療法を見つける試みもされています。患者さんに実際に投与しなくても、細胞で試すことで効果や副作用が分かるというわけです。

 iPS細胞ではなく、患者さん自身の細胞を採取、加工して治療に応用するような再生医療もあります。例えば、重症心不全は心臓の働きが弱くなってしまう病気ですが、患者さんの筋肉を採取、培養してシート状にして心臓に張り付けることで、心臓の収縮力を増強し、心不全を治す治療が現在行われています。

 また、高額な薬価で話題となった、白血病に対する「CAR−T細胞療法」も再生医療の一種です。患者さん由来の免疫細胞を加工し、がん細胞を攻撃しやすくした上で患者さんの体に戻すもので、今後いろいろながんに対する効果も期待されます。

 より広く行われている再生医療としては「PRP(多血小板血漿(けっしょう))療法」が挙げられます。血液から血小板を採取、濃縮して治療に応用するもので、床ずれややけどの治療、歯科領域で多く行われていました。近年はスポーツ選手のけがの治療に使われ、筋肉の損傷や膝の痛みに対する有効性が注目されています。行う病院は厚生労働省への届け出が必要です。

 再生医療はずいぶんと身近になってきています。将来、今まで治療の難しかった病気やけがが克服できる日も近いかもしれません。

(長崎市坂本1丁目)長崎大大学院消化器再生医療学講座 教授  金高 賢悟

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