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2019年7月15日 掲載

「がんと医療用麻薬」

 現在、わが国の平均寿命は男性81歳、女性87歳と世界トップクラスの長寿国です。一方、生涯で、およそ2人に1人の割合でがんにかかっており、がん患者全体の5年生存率(治療でどのくらい生命を救えるかの指標)は約60%です。医学の進歩に伴って年々、上昇しつつあります。

 これらの数値から、長い人生の中で、多くの方ががんにかかっていることが分かります。この病気とは、一定の年月をかけて付き合っていく必要がありそうだということも、理解できると思います。

 がんに対する大きな心配事の一つは「痛み」でしょう。痛みがあると夜間の安眠が妨げられたり、物事を考える気力も湧かなくなったりします。痛みを取ることは、その人が余裕を持って自分らしく過ごす上で、とても大切です。

 がんの痛みでも、ごく軽いものは頭痛などに使用する一般の消炎鎮痛薬、またはアセトアミノフェン(小児の解熱剤に使われる薬)が有効です。それらで十分な効果が得られない場合、医療用麻薬(オピオイド)の併用をお勧めします。

 先に述べたような鎮痛薬と麻薬は、作用する部位が異なるため、併用すると鎮痛効果がより確実で、安定するからです。がまんする必要はありません。きちんと痛みを抑え、自分らしく過ごしましょう。

 「麻薬」という名称には事件報道などの影響もあり、負のイメージが付きまといがちです。「痛みを取るために麻薬を始めましょう」と説明をした途端、顔が曇って拒否的になる方が、今も時折いらっしゃいます。まず、麻薬について最初に覚えていただきたいのは「がんの痛みに対して使う場合、依存症になる恐れはない」ということです。適切に処方され、使用されている限り、心配は要りません。

 麻薬の主な副作用は「眠気、吐き気、便秘」です。眠気と吐き気は徐々に軽減します。必要に応じて吐き気止めを併用できます。ただし、便秘だけは自然に軽減しませんので、症状に合わせて下剤を飲むことになります。最近は各種の良く効く下剤が使えます。

 また、医療用麻薬は内服薬だけでなく、最近では貼り薬の製剤も良く使われます。貼り薬といっても局所に効く湿布薬とは異なり、血液に溶け込んで、安定して全身に効果を発揮するものです。その人のライフスタイルや体調に合わせ、飲み薬か貼り薬かを選択できるのです。

 ほかに注射製剤も使用できますので、もし薬が飲めなくなっても心配しなくて大丈夫です。麻薬が効いていても突然出てくる強い痛み(突出痛)には、レスキュー薬とよばれる即効性のお助け薬がセットで使えます。強い痛みにびくびくする必要はなくなりました。

 もし、がんになっても、鎮痛をはじめ、さまざまな形で大切なあなたの人生を応援するのが緩和ケアです。体調に合わせ、ご自身のペースで生活を楽しんでいただけるよう、私たちは支え、お手伝いしたいと日々願っています。

(長崎市茂里町)日赤長崎原爆病院緩和ケア内科 部長  後藤 慎一

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