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2019年8月5日 掲載

「急性虫垂炎(盲腸)」

「散らす」治療が増加

 皆さんが盲腸と呼んでいる病気は、正式には急性虫垂炎といいます。虫垂は右下腹部にあり、大腸の最初の部分(盲腸)から突き出した幅0・5センチ、長さ7センチくらいの腸を指します。

 原因としては、行き止まりになっている虫垂に食べかすや粘液が詰まった状態(画像診断では糞(ふん)石といいます)になり、細菌が繁殖して炎症を起こしていることが多いです。炎症の起こり始めは、へそより上のみぞおち辺りが痛みますが、腹膜まで及ぶと右下腹部が痛んできます。「最初の先生は急性胃炎と言ったのに」ということがよくありますが、後から診た医師の方が診断をつけやすく、「後医は名医」といわれるゆえんです。

 炎症の軽い順から (1)カタル性虫垂炎 (2)蜂窩織炎(ほうかしきえん)性虫垂炎 (3)壊疽(えそ)性虫垂炎− の3段階に区分されます。
症状はさまざまです。軽い腹痛から、さらに化膿(かのう)が進むと虫垂に穿孔(せんこう)(腸に穴が開くこと)が起こり、周囲に膿(うみ)が貯留する「腹腔内膿瘍(のうよう)」になる恐れがあります。おなかの中に膿が広がる「汎発性腹膜炎」まで、進んでしまうこともあります。

 診断は腹部の触診、血液検査、腹部コンピューター断層撮影(CT)検査、超音波検査などを行います。血液検査では白血球数、炎症の強さを示すCRP値をみます。画像診断では虫垂の腫れの程度や腹腔内膿瘍の有無を調べ、間違いやすい憩室炎や腸炎、尿管結石、婦人科疾患の可能性を除外します。触診の所見を合わせ、総合的に緊急性や治療方針を決定していきます。

 治療に関しては、20年ほど前までは診断がつき次第、ほぼ全例に緊急手術をしていました。近年は抗生剤の進化や、注射針で膿瘍を取り除く「穿刺(せんし)ドレナージ術」の進歩が目覚ましく、保存的治療(散らす)という選択も増えてきました。手術法も、従来の開腹術から、三つの小さい穴を開けての腹腔鏡下手術へと進化しています。明らかに術後の感染と痛みが少ないという、メリットがあるためです。当院も、ほぼ全例に行っています。

 当院の治療方針では、まず抗生剤の治療を行います。特に腹腔内膿瘍を伴った炎症の強い虫垂炎に対しては、急性期の緊急手術による切除範囲の拡大や、術後合併症を減らす意味で有効です。全て外科医が担当し、24時間以内(翌朝)に再評価を行い、その都度方針を検討していきます。
 受診時に汎発性腹膜炎である場合、高度の腸閉塞(へいそく)を伴う場合、糞石があり早期の手術を患者が希望する場合− は緊急手術を行います。

 保存的治療は10〜30%程度の確率で再発するデメリットがあります。回避法として保存的治療で改善した後、4か月以内に切除手術をする方法があります(腹腔鏡下待機的手術)。無症状時の手術であり、メリットとデメリットを十分お話しして選択してもらっています。緊急手術の減少は、医師や看護師の負担軽減にもつながっています。

 「胃が痛い!」というときは、虫垂炎の初期の可能性があることを理解し、早めの受診をお願いします。ご自身の希望も主治医に伝え、最良の選択をしていただきたいと思います。

(大村市古賀島町)市立大村市民病院 副院長  松尾 俊和

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