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2019年9月2日 掲載

「大腿骨近位部骨折」

転倒など原因、命の危険も

 高齢になり骨粗しょう症になると、骨強度が低下し、転倒などの比較的軽い外力でも骨折することがあります。このような骨折を「脆弱(ぜいじゃく)性骨折」といいます。脆弱性骨折を起こしやすい場所は肩、手首、背骨、股関節などです。今回は、股関節にある太ももの骨(大腿骨近位部)の骨折に関するお話です。

 「部屋で何かにつまずいて転倒した」「椅子に座ろうとして滑って尻もちをついた」といったときに、脚が痛くて動けないとなると、大腿骨近位部骨折が疑われます。屋内での受傷が意外に多いのです。さらに、高齢者の中には意思表示が困難な人がいます。その場合、周囲の人が「動きがいつもと違う」「脚が腫れている」「体を動かすと顔をしかめる」などの異変に気付く必要があります。

 大腿骨近位部骨折が疑わしければ、すぐに整形外科のある病院を受診しましょう。救急車を呼んでもいいでしょう。病院で、整形外科医は骨折があるかないかを迅速に調べます。骨折が判明したら、早急に元通りに動ける体にしないといけません。手術を行い、骨折部を金属材料を使ってがっちりと修復固定し、社会復帰に向けて、しっかりリハビリを行います。

 大腿骨近位部骨折は、整形外科医の間では「生命に関わる疾患」と認識されています。

 高齢者はさまざまな持病を抱えており、大事なお薬もたくさん飲んでいます。ひとたび骨折すると動けなくなり、精神的に参ってしまいます。骨折した所からじわじわと出血し、貧血が進行します。タンパク質などの栄養分も漏れ出ていきます。表面上は目に見えませんが体の中では大変なことが起こっており、体力的にも弱ってしまいます。

 骨折から手術までの時間が長くなればなるほど、心も体も疲弊することになり、合併症(肺炎、心不全、脳梗塞(こうそく)など)を起こすと、場合によっては死に至ります。このため整形外科医は大腿骨近位部骨折の患者さんに対し、早急に手術やリハビリを施して、社会復帰を早める努力をしてきました。近年では「大腿骨近位部骨折は緊急手術」という認識が、他科の医師をはじめ、看護師や検査技師など病院スタッフにも浸透し、スムーズな治療が行えるようになりました。

 「ならば、そのような骨折をしないようにしよう」と思う人も多いと思いますが、まさにその通りです。骨折を契機に寝たきりになる人もいますので、予防が第一です。骨折の予防には、骨粗しょう症の治療と転倒防止が大切ですが、骨粗しょう症なのに治療を受けていない人が、まだまだたくさんいます。ご自身が骨粗しょう症かどうかすら、はっきりしていない人もいます。

 65歳以上の女性、以前に脆弱性骨折をしたことがある人、内科的な持病がある人、ステロイド剤を内服している人は、特に注意が必要です。まずは、骨密度を測定してみましょう。痛い検査ではありません。近くの整形外科医にご相談ください。

(長崎市片淵1丁目)堀内形成整形外科医院 副院長  堀内 英彦

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