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2019年11月4日 掲載

「乳がんで命を落とさないために」

乳房の変化 常に意識を

 台風19号による被害を受けられた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

 台風や地震などの自然災害による被害をできるだけ少なくするためには、自ら取り組む「自助」、地域や身近な人同士が助け合う「共助」、国や地方公共団体などが取り組む「公助」の三つが重要です。中でも基本となるのは「自助」、すなわち一人一人が、自分の安全を守る意識を持つことです。これは病気にもいえます。

 現在、わが国では一生のうちに、女性の11人に1人が乳がんにかかるといわれています。総数にすると年間約9万人が乳がんにかかり、約1万4千人が亡くなっています。米国では8人に1人といわれていますから、欧米諸国の方がまだ多いのですが、欧米の先進国では1990年ごろから乳がん検診が開始され、治療成績の向上もあり、死亡率は経年的に低下しています。

 一方、治療成績は決して劣っていないにもかかわらず、わが国だけがいまだ、死亡率が右肩上がりなのです。原因として、欧米では乳がん検診率が70〜80%なのに対して、わが国では30〜40%と伸び悩んでいることがあります。

 検診で見つかる乳がんは早期がんの場合が多く、手術や薬物療法で治る確率は高くなります。これに対し、検診を受けずにいて、発見されたときは既に進行がんだった場合、どうしても治療成績は低下してしまいます。

 災害に備える姿勢と同様に、乳がんで命を落とさないための「備え」が非常に重要です。女性自身が自分の乳房の状態に日頃から関心を持ち、意識して生活することを「ブレスト・アウェアネス」といいます。乳がんの早期の発見・診断・治療につながる、女性にとって非常に重要な生活習價といえます。

 米国がん協会では、ブレスト・アウェアネスを身に付けるための4項目の実践を推奨しています。(1)自身の乳房の状態を知るために日頃から自身の乳房を見て、触って、感じる(乳房の健康チェック)(2)気を付けなければならない乳房の変化を知る(しこりや血性の乳頭分泌など)(3)乳房の変化を自覚したら医師に相談する(医療機関に行く)(4)40歳になったら乳がん検診を行う−であり、検診は大切な1項目なのです。

 乳がんの中には進行が早いものや、高濃度乳房のためにマンモグラフィー(乳房エックス線撮影)で検出できないも
のがあります。しかし、ブレスト・アウェアネスを実践することで、そのような乳がんを早期発見することも可能です。「しこりを探す」という意識ではなく、「いつもと変わりがないか?」という気持ちで、変化に気を付けることがポイントです。

 ブレスト・アウェアネスを心掛けることで、女性自身の乳房に対する関心や意識が高まり、変化があった場合には、すぐに医療機関を受診するなどの適切な行動を取ることが、習慣付くようになります。乳房の変化を意識することは、乳がん検診を定期的に受けるための動機付けにもなるでしょう。

(長崎市矢上町)おおくぼ乳腺クリニック 理事長 大久 保仁

 

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