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2019年11月18日 掲載

「急性心筋梗塞」

急激に発症 命の危険も

 最近はいかに長生きするかではなく、いかに長く健康に生活できるかに関心が高まっています。いわゆる「健康寿命」で、心身共に自立して健康的に生活できる期間のことです。

 脳卒中や心臓病などの循環器病は、がん(悪性新生物)に次ぐ主要な死亡原因であり、介護が必要となる主な原因の一つといわれています。12月には「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病にかかる対策に関する基本法」(昨年12月成立)が施行されます。循環器病にならないように、また、なってしまった場合の対策を総合的、計画的に推進することが目的です。

 私の専門である心臓病の中で、健康寿命に関わる病気はいくつかありますが、急激に発症して命にも関わる急性心筋梗塞をまず挙げたいと思います。心臓に血液を送っている血管(冠動脈)が急に詰まり、心臓が壊死(えし)してしまう病気です。

 動脈硬化が進んだ冠動脈が、急に血の塊が生じて閉塞(へいそく)してしまいます。冠動脈が30分閉塞してしまうと、心臓壊死が始まるといわれています。一度壊死してしまうと元には戻らず、心臓のポンプ機能が失われてしまいます。急激に発症して命を落とすこともある上、回復しても日常生活に支障を来す恐ろしい病気です。

 急性心筋梗塞にならないためには、どうしたらいいでしょうか。動脈硬化を進めるといわれている高血圧や高脂血症、糖尿病をしっかり治療して、たばこをやめることが重要です。しかし、いったん急性心筋梗塞になった場合は、なるべく早く詰まっている冠動脈を広げて再かん流させることが大事です。早期発見、早期治療です。治療が早ければ早いほど、その後の心機能改善が期待できます。

 過去16年間で、私たちの病院で治療を受けた急性心筋梗塞の患者さんは1676人でした。発症時の症状は「胸の痛み」が多いのですが、その程度は「今まで感じたことのない強烈な痛み」から「何となく圧迫されているような感じ」までさまざまです。また、中には胸の痛みを感じない人もいます。「ムカムカする」「吐く」「腕の痛み」「顎の痛み」「背中の痛み」のために受診されて、心筋梗塞だと分かったという患者さんです。

 心筋梗塞の診断で最も簡便な検査は心電図です。心電図のST波という部分が上昇しますが、中には下降する場合や、変化に乏しい場合もあります。変化に乏しい場合は血液中のトロポニンTの検査が診断に有用です。トロポニンTは心臓の心筋細胞を構成するタンパクの一つで、心筋細胞が壊死に陥ると、細胞膜が壊れて細胞内から血液中に放出されます。最近は、わずかなトロポニンTでも高感度に測定できるようになり、診断の精度が上がりました。

 あなたの健康寿命を延ばすために、健康診断で高血圧、高脂血症、糖尿病を指摘されたら、放置せずに医療機関を受診することをお勧めします。胸の痛みや不快感が続くときは急性心筋梗塞を疑って、早急に医療機関を受診してください。

(長崎市新地町)
長崎みなとメディカルセンター心臓血管内科 主任診療部長  武野 正義

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