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2020年2月17日 掲載

「子どもの中耳炎」

幼少期にしっかり治療を

 子どもの頃、中耳炎の治療のために耳鼻咽喉科によく通っていました。「耳管通気治療」という耳に空気を通す治療を受け、痛くてつらかったことを今でも覚えています。今はなぜ、つらい思いをしてまで中耳炎の治療を受けなければならなかったのか、理解できる立場になったので、中耳炎のことを少し述べてみたいと思います。

 中耳炎は、中耳(鼓膜の奥の空間)に炎症が起きた状態の総称です。皆さんがイメージする、耳が痛い、熱が出る、耳から汁が出る(耳漏)−といった症状は「急性中耳炎」で発生します。ほかに、中耳に滲出(しんしゅつ)液がたまるだけで痛みも耳漏もない「滲出性中耳炎」、鼓膜に穴が開いて耳漏を繰り返す「慢性中耳炎」など、中耳炎にもさまざまなものがあります。

 中耳は、空気の通り道(耳管)で鼻の奥の上咽頭という場所とつながっています。中耳炎が起こる原因には主にこの耳管が関係しています。風邪などで上咽頭に感染・炎症が起きると、その炎症が耳管周囲から中耳まで波及し、中耳炎を起こします。また、上咽頭に感染した細菌やウイルスが耳管を通って中耳に入り、中耳炎を起こす場合もあります。

 耳痛が生じ発熱して夜も眠れないといった、つらい経験をされた方もいらっしゃると思います。このように症状がはっきりしている場合は治療に前向きになれますが、滲出性中耳炎のように痛みも耳漏もないようなときは、気づかずに治療が遅れることがあります。

 中耳炎の状態では、程度の差はあるにせよ難聴が起きており、発語前の子どもの場合、発語の遅れや言葉のひずみの原因になることがあります。就学している場合は先生の話が中途半端にしか聞こえず、学業に影響が出ることがあり、後々に大きなデメリットが生じてしまう恐れがあります。

 また、耳の周りには乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)という多数の空気の小部屋があって、中耳の圧調節を行っているのですが、乳突蜂巣の発育が悪い場合は、中耳炎がなかなか治らないことがあります(遷延化)。幼少期に中耳炎が続くことで乳突蜂巣の発育が悪くなり、さらに中耳炎が治りにくくなるという悪循環を繰り返すため、幼少期にしっかりと治療する必要があります。

 中耳炎の治療は、その程度に合わせて抗菌薬などの薬を使って感染・炎症を軽減させますが、炎症が重度の場合は、鼓膜を切開して中耳内の膿(うみ)などを排出させてから、薬の治療を行います。遷延化がみられている場合は「鼓膜換気チューブ留置」という手術を行う場合もあり、どのような中耳炎の状態なのかをはっきり診断することが重要です。

 最後に、症状がはっきりしている中耳炎は家族も気づきやすいですが、症状がはっきりしない中耳炎も多くあることを覚えておいてください。幼少期の中耳炎をしっかり治療しないと、数年後に影響が出ることがあるので、風邪の症状があるときには耳鼻咽喉科の受診を考えていただければ幸いです。

(長崎市新戸町3丁目)はたち耳鼻咽喉科クリニック 院長  畑地 憲輔

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