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2020年3月15日 掲載

「集中治療室(ICU)」

救命と社会復帰 目指す

 重病人が救急車で運び込まれ「今、ICUで治療中です」−。こんな言葉をドラマや漫画、そして現実のニュース番組でも見聞きすることがあります。ドラマなどでは、医師が重苦しい表情で家族らに容体を説明し、登場人物が亡くなったり、奇跡的に助かったりするシーンを目にします。集中治療室(ICU)は、このようなイメージではないでしょうか。

 ICUは院内の外来、病棟、手術室や他の病院から「容体の重い人」を受け入れて、元気な状態に戻すために治療を尽くす場所です。救急車で運ばれてきた重症者も、いったん救急外来で処置を受けてからICUに入ります。一般的に、救急車が直接ICUに乗り付けることはありません。

 命に関わる容体の場合は通常の治療に加え、人工呼吸器や血圧・脈拍を調整し安定させる薬、透析器、感染症や炎症を抑える抗生剤やステロイド、さらには、さまざまな治療の際に苦しくないようにする鎮静薬を使います。救命のために行いうる全ての手段を総動員して治療に当たります。

 このように集中治療・集中治療医学は外科、内科を問わず、集中的な管理・治療を行うことで肺、心臓、肝臓、腎臓 、脳など、生命維持に重要な臓器機能を回復させ救命することを目的としています。しっかりと状態を監視、管理し治療に当たる必要がある患者さんが対象のため、一般病棟と比べ看護師も手厚く配置されています。

 急性期だけでなく、慢性期や終末期であっても、状況によりICUに入ることがあります。例えば、長らく持病を抱えている患者さんや、緩和ケアを受けている、がん患者さんも入室する可能性があります。基本的に診療科の区別なく、深刻な病状に対し、濃厚な治療の効果が望めると判断される場合にICUに入ります。

 ドラマなどの影響で、ICUに入ると、それだけで「もうだめかもしれない」と思ってしまう人がいるかもしれません。しかし、ICUで患者さんが助かることは決して奇跡ではなく、日々進歩している医療の成果です。ICUは、患者さんを生還させるための場所といえます。

 治せない病気や致命傷で、不幸にして助けられない患者さんもいます。しかし病状によっては、ICUに入ることで救命の可能性が高くなることもあるのです。

 容体が悪いため、また鎮静薬を駆使して苦痛を感じないようにして治療を行うため、患者さんはICUに入っている間のことを、ほとんど覚えていないことが多いです。それでも、ICUに入室していた患者さんが元気になり、あいさつに来られると、とてもうれしいです。

 世界に先駆け、超高齢化社会を迎えるわが国において、ICUに入る患者さんの年齢も高くなりつつあります。高齢者は急速に筋力が衰え、一命を取り留めたとしても日常生活が困難になることが多く、生活の質は著しく損なわれることになります。これからは集中治療後、いかに入院前と同等の身体・精神機能に回復させていくかが、取り組むべき極めて大きな課題です。

(長崎市新地町)長崎みなとメディカルセンター
集中治療科主任診療部長 兼 集中治療部長  中村 利秋

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