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2020年5月4日 掲載

「がんがくれた贈り物」

気付き 新たな出会いに感謝

 皆さんは「キャンサーギフト(がんがくれた贈り物)」という言葉を聞いたことがありますか? がんになったことで、それまで見えていなかったことに気付いたり、新たな出会いがあったり、感謝するような出来事が起きたりすることをいいます。

 私は4年半前、42歳のときに卵巣がんと診断されました。12時間に及ぶ手術、抗がん剤治療を経験し、今は手術の後遺症である足のリンパ浮腫(ふしゅ)と付き合っています。自分が医療者であったことから、がんと診断されたときの恐怖・不安・悲嘆は、皆さんに比べると大きくはなかったと思いますが、それでも、しばらくは涙を流す毎日でした。

 抗がん剤治療中は仕事を減らしたり、休みをもらったりしながら、治療を継続しました。抗がん剤で髪の毛は抜けてしまい、ウィッグが必要でした。どうせならと、ショートヘアとボブヘアのふたつのウィッグを準備して、その日の気分やスタイルに合わせて、とっかえひっかえしながら生活を楽しみました。

 今は半年に1回の定期検査を続けながら、地域のかかりつけ医として、毎日仕事をしています。がんになったおかげで、かかりつけの患者さんががんになったとき、同じがん患者だと伝えることで、共に闘う勇気を分けることができます。がんになったからつながった、すてきな友人がいます。がんになったから人の優しさを知ることができ、人の助けを借りることが、できるようになりました。

 もちろん、がんで失ったものはありますが、得たもののほうがはるかに多いです。私自身、がんになってからのほうが、心身共に健康だと感じています。

 がんに限ったことではありませんが「あなたの苦労は、私がちゃんと知っています」という主治医がいると、つらい治療にも耐え続けることができます。がんを診てくれる主治医はもちろん、がんと分かる前から付き合っている、かかりつけ医との関係を継続してください。いつでも何でも相談できるかかりつけ医がいることで、がん治療を乗り越えることができます。実は、あなたの頑張りに、かかりつけ医が勇気をもらうこともあるんですよ。

 “過去を変える未来をつくる”。映画「マチネの終わりに」の中に出てくるフレーズです。2人に1人ががんになる時代、もしあなたががんになって、つらい日々を過ごしているのであれば、キャンサーギフトを探してみてください。

 がんになったことは変えることができませんが、がんになったことで良かったと思えることが見つかれば、つらい過去を変えることができます。がんがあなたの人生のすべてになってしまっては、面白くありません。がんと共存して、かかりつけ医と一緒に、素敵な未来をつくりましょう。

(松浦市御厨町)押渕医院 医師  押渕 素子

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