>>健康コラムに戻る

2020年6月14日 掲載

「総合周産期母子医療センター」

危険性高い妊娠に対応

 長崎大学病院は2019年4月に新生児集中治療室(NICU)などを拡充し、NICUは6床から12床に、回復治療室(GCU)は9床から12床に増えました。同年10月には、妊婦と胎児を24時間管理する母体胎児集中治療室(MFICU、6床)を新設し、県内2カ所目となる「総合周産期母子医療センター」の指定を受けました。

 本県ではNICUのベッド数が不足していたため、長崎市内の病院から大村市や佐世保市へ、あるいは県外へ母体搬送することもありました。出産後のお母さんが赤ちゃんに会うために、市や県を越えて通う必要があり、大変な負担になっていました。

 この状況を解消すべく、15年から県、長崎大の支援を受けて今回のセンター開設に至りました。4月からは、早産しそうな妊婦さんも、妊娠週数の制限なく受け入れることができるようになりました。

 MFICUが整備されたことにより、合併症のある妊婦さんや、さまざまな疾患がある赤ちゃんの管理・治療にも対応できるようになりました。危険性の高い妊娠には、小児科をはじめさまざまな診療科と連携し対応しています。

 例えば合併症妊娠に対しては、妊娠前から内科などと協力して管理を行い、妊娠後は母体ならびに胎児の状態を評価します。分娩(ぶんべん)に際しては、新生児医療を担う小児科と連携して、より安全な分娩時期と分娩管理方針を決定しています。

 胎児形態異常に対しては、超音波検査や磁気共鳴画像装置(MRI)検査で出生前診断を行い、小児科、小児外科などと連携します。産科救急には高度救命救急センター、手術部、麻酔科、および小児科と連携し、迅速かつ的確な対応を行い、母体と赤ちゃんの救命に取り組んでいます。

 特に、赤ちゃんや母体の生命を左右する疾患である常位胎盤早期剥離(胎盤が赤ちゃんの娩出前に剥がれてしまう病態)や、出産後の大量出血など、母体と赤ちゃんの救命が必要な産科救急疾患は、無条件に本院が受け入れています。 常位胎盤早期剥離では、高度救命救急センター到着時に赤ちゃんの心拍が確認されれば、すぐに手術室で帝王切開術を行える態勢が整備され、母体、胎児をほぼ100パーセント救命できています。

 産科には、遺伝医療に関する専門家である臨床遺伝専門医が複数在籍しています。染色体異常などが疑われる場合には、遺伝カウンセリング部門と連携してカウンセリングを行います。妊婦が出生前診断を希望する場合には、母体血による胎児染色体検査(NIPT)や羊水検査を行うことも可能です。胎児の腔水症(胸や腹に水がたまる症状)に対する新しい治療法「胸腔羊膜腔シャント術」などの治療も行っています。

 幅広い医療に対応できる周産期(母体・胎児)専門医の育成も行っています。総合周産期母子医療センターを持つ感染症指定医療機関は本県唯一で、現在は妊婦の新型コロナウイルス対策にも取り組んでいます。今後も、県民が安心して出産できるように貢献してまいります。

(長崎市坂本1丁目)長崎大学病院産婦人科 准教授  長谷川 ゆり

>> 健康コラムに戻る