2020年7月6日
掲載
「大腸がん」
腹腔鏡手術が普及
大腸は結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)と直腸からなり、長さ1・5〜2メートルくらいの臓器です。水分を吸収する働きがあり、栄養素の吸収作用はほとんどありません。大腸がんは大腸粘膜から発生し、良性の腺(せん)腫ががんになる場合と、正常粘膜からがんが発生する場合の二つの経路があります。
大腸がんによる死亡率は、男性ではがんの中で第3位、女性では第1位となっています。食生活の欧米化(動物性脂肪やタンパクのとりすぎ)により、国内で増加傾向にあります。肥満や飲酒、喫煙も大腸がんのリスクを上げるといわれています。
大腸がんは、できる場所から結腸がんと直腸がんに分かれます。大腸のどこにでも発生しますが、特にS状結腸、直腸に多いとされています(約70%)。腸の内側の粘膜から発生し、時間の経過とともに、次第に腸壁に深く浸潤していきます。リンパ管や血管に入り、リンパ節や肺、肝臓などへの転移を来します。
早期は自覚症状はほとんどありませんが、進行すると、血便、便が細くなる、残便感、下痢と便秘の繰り返し、腹痛腹部膨満感−などの症状が出てきます。ただ、粘膜にとどまるような早期のがんでは、転移を来すことは、ほとんどありません。その場合の治療としては、手術ではなく内視鏡を使っての切除が行われます。早期に発見できれば、ほぼ治ります。
粘膜を越え、深く浸潤したがんは手術の適応になります。結腸がんの手術は、がん周囲のリンパ節を切除するために、がんから10センチくらい離して腸管を切除し、リンパ節を含む腸間膜を切除します。がんがある部位で腸管の切除範囲が決まります。回盲部切除、結腸右半切除、横行結腸切除、結腸左半切除、S状結腸切除−などがあります。
直腸がんは肛門からの距離や進行度により、前方切除、直腸切断術、括約筋間直腸切除術などが行われます。前方切除はがんを含む直腸を切除し、つなぐ(吻合(ふんごう))する手術です。上部直腸でつなぐのを高位前方切除術、下部直腸でつなぐのを低位前方切除術といいます。
肛門近くや肛門にできたがんでは、直腸と肛門を切除し、永久的人工肛門(ストーマ)を造設します。これが直腸切断術です。括約筋間直腸切除術は、進行度によって、肛門括約筋の一部のみを切除して肛門を温存し、永久的なストーマを回避する手術です。
結腸がん、直腸がんの手術のほとんどは、最近では開腹手術ではなく、大きく開腹せずにすむ腹腔(ふくくう)鏡手術で行われることが多くなってきています。二酸化炭素を入れておなかを膨らませ、モニターを見ながら手術を行います。
利点としては、傷が小さく術後も痛みが軽い、美容的である、癒着が少ない、出血が少ない、拡大視効果で繊細な手術が可能、早期の退院、社会復帰が可能である−などが挙げられます。現在では広く普及し、当院でも大腸がん手術のほとんどが、腹腔鏡手術で行われています。
(長崎市茂里町)日本赤十字社長崎原爆病院消化器外科 部長 中ア 隆行 |