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2020年8月3日 掲載

「睡眠薬と認知症」

“直接原因”の風説は誤解

 「睡眠薬を飲み続けていたらボケるって本当ですか?」と、よく尋ねられます。答えるのにいつも、ためらってしまうのですが、それには理由があります。その理由を説明するために、まず睡眠の働きから話を始めさせてください。
 眠らない生き物はいません。眠っている間は無防備で、明らかに生存に不利であるにもかかわらず、全ての生物が睡眠を必要としています。それはなぜだと思いますか?
実はまだ、はっきりと分かっているわけではないのですが、最近になって少しずつ解明されつつあります。

 脳は大きく分けて、二つの細胞で構成されています。網の目のような「神経細胞」と、その隙間を埋めるような形で存在する「グリア細胞」です。普段はギュウギュウに詰まっていますが、睡眠中の脳ではグリア細胞が縮み、できたスペースに脊髄液などの液体が流れて、頭の中にたまった老廃物を洗い流しているのです。いわば睡眠は“脳の掃除”なのです。

 洗い流した老廃物の中には、アルツハイマー型認知症の原因として広く知られている「アミロイドβ(ベータ)」も含まれています。眠れない状態が続くとアミロイドβがたまり、認知症にかかりやすくなると言えるでしょう。

 さて、ここで冒頭の質問に戻ります。昔ながらの睡眠薬は、記憶の領域にも作用することから「認知機能を低下させてしまうのでは」という懸念が、以前から議論されていました。睡眠薬の服用と認知機能との関連を調べたいくつかの研究結果には、両論があり、論争が続いています。しかし最近の見解では、直接的な関係はほぼないだろうと言われています。

 それでも“全くない”と言い切れないのも事実です。そのために歯切れの悪い回答にならざるを得ず、答えに窮するのです。

 ただ、一つ明確に言えることは、睡眠薬の服用をためらってまで不眠の状態を続けることこそが、認知症の原因になってしまう、ということです。世間で当たり前のように言われる“睡眠薬イコール認知症”という風説は、誤解であるということを知っておいてほしいのです。

 とはいえ「眠れないのならすぐに睡眠薬を」と、真っ先に勧めているわけではありません。

 適度な睡眠を取るコツは (1)就寝、起床時間をなるべく一定にする (2)睡眠時間にこだわらず、ほどほどの熟睡感を目指す (3)朝、太陽の光を浴びるように意識する (4)適度な運動をおこなう (5)昼寝の習慣がある人は20〜30分程度にとどめておく (6)就寝4時間前くらいからカフェインの摂取は控える (7)就寝前や就寝時に、画面が明るい電子機器の使用は控える (8)お風呂はぬるめの温度にする−などです。ちょっとした生活面の工夫で、ガラッと良くなることもあります。

 不眠は精神的不調のバロメーターであるだけでなく、放っておくと、身体的な不調にもつながる重要な問題です。眠れずに困っているという方は、些末(さまつ)なことと考えず、専門医へ相談してみてはいかがでしょうか。

(長崎市勝山町)おのクリニック 院長  小野 慎治

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